残雪の乗鞍

矢澤昭文

 

毎年4月には、岐阜・福井県境の残雪豊富な山に登っていた。今年はマラソン大会に出る ことと重なり、いつの間にか5月になっていた。突然雪原を歩きたくなり、休みが1日できたので、日帰りできる山はと思い浮かべたのが乗鞍岳だった。 前夜、中央自動車道のS.A.で仮眠し、朝松本i.C.から乗鞍高原に向かった。奈川渡ダム を過ぎ、徐々に高度が上がっていく。桜の花がチラホラしており、季節が戻ってしまった ような気がした。また、スキー場の中の道を進み、さらに高度を上げると、しらびその森 の中は雪がいっぱいだった。

三本滝の駐車場に車を停め、身支度をして歩き始めた。久しぶりの晴れ間で青い空が広 がっていた。すぐに暑くなった。ツアースキー用のコースをゆっくりと辿っていった。前 面には秀麗な姿をした乗鞍岳が裾野を拡げていた。それが少しずつ大きくなり、樹林帯を 抜けると広い雪原だった。岳樺の木やしらびその木がアクセントをなしていた。

肩の小屋までは行かずに、目の前の尾根を登ることにした。下からは緩く見えていた斜 面が実際に歩いてみて高度を上げると急になってきた。雪は割りと固くアイゼンがよく効 いていた。背後には穂高連峰が雲の上から顔を出していた。槍の穂先もくっきりと聳えて いた。風が少し強くなり肌寒く感じつつ頂上に登り着いた。祠の周りを一周してから肩の 小屋の方へ下山することにした。快適な斜面が続いていた。途中からアイゼンを脱ぎ、足 を滑らせながら下りた。

風の弱い所まで来て荷物をおろした。コーヒーを沸かして昼食を摂っていると、グエ ェグエェという声が聞こえてきた。雷鳥が数羽舞っていた。体毛はまだほとんど白かった。 下から山スキーで登って来る者が数名横を通り過ぎた。この時期ここは山スキーヤーが多 い。自分もスキーが上手ければと思うが、登りはまだマシだが滑るのがヘタクソではどう しようもない。雲も出てきて少し寒くなってきた。去り難い風光をキチンと網膜に焼付け
、のんびりと下に向かった。

 


個人山行報告目次へ     HOMEへ