◆残雪期の北穂東稜から奥穂  藤野孝人

 
北穂東稜の最初の岩場   北穂東稜の上部
 
 今年の5月は、仲間三名で残雪の穂高を楽しみました。以下はその報告です。
涸沢の周囲はものすごい残雪の量とスケール。しばし見とれる。ザイデングラードもほとんど雪に覆われて、岩の一部が頭を出しているのみ。5・6のコルへは、いつ雪崩れるか分からない状態。見ただけで、狙っていた前穂・北尾根は断念。検討の結果、最初は「北穂・東稜の登攀、北穂より奥穂の小屋前まで縦走」。
翌日は「奥穂」をピストンすることにした。

 薄暗い4:15、ヘッドライトを点けて出発。先行の二人組と三人組を追って行く。一般ルートと分かれると急斜面になる。雪がよく締まりアイゼンがよく効く。これを登りきったところでロープを結ぶ。いざ本番!!
最初の岩場だ。難しそうに見えたが取り付いてみると意外と簡単。岩場でビレーしようとしたがハーケンが見つからず、そのまま少し登り、雪にピッケルを深く差し込んでビレーする。「OK!!」と叫ぶ。「行きます!!」の声を聞き、ロープをたぐる。稜線はピッケルを向こう側の斜面に差し込んで、身体はこちら側という細い個所がある。本来、「刃渡り」とはこういうところだろう。ロープを出したのは三ピッチほど。間もなく懸垂のポイントに到着。ここはロープを出さず、踏み後を追ってピッケルにてクライミングダウンする。

  一息つける場所があり、ここで一本。はるか眼下には北穂を目差す登山者の列が蟻のように小さく見える。
前穂の北尾根は真っ白なピークが連なり、絵になる姿だ。北穂へは急登が続いており先行組が登っていく。
後続が見えないのでゆっくり休んでから、踏み後を追った。登り切ると北穂の小屋の前であった。登ってきた東稜を見下ろすと、点々と人の姿が見えた。槍ケ岳方面の眺望が特に素晴らしい。

 大休憩の後、奥穂方面へ縦走を開始。やがて滝谷側に20m程の急斜面を下るところに出た。一目見ただけで、ここは懸垂下降と決断。ハーケン1本とピナクルを支点として懸垂下降。危ないトラバースの箇所でもロープを出した。時間はかかるがこの方が安全。やがて到着した涸沢岳で、たどってきたコースを眺める、なかなかよい気分だ。奥穂高岳もよい眺めだ。奥穂の小屋でゆっくりと休憩。涸沢へはザイデングラードに沿った小豆沢を下る。

 翌日、3名で改めて小豆沢を登る。ようやく白出のコル、小屋の前に到着。ここでロープを出し、結びあって出発。梯子があるので、直ぐに順番待ちとなる。人気の奥穂だけに人が多い。やがてジャンダルムが視界に入り、これを見ながら進む。目線と同じ高さになると山頂は近い。山頂で大展望を楽しむ。いつかこの残雪期に西穂へ縦走したい、と思ってウオッチする。

 下山は特に慎重に下る。昨日、小屋の上の急斜面で2名が滑落したとのこと。特に問題なく小屋の前に着く。ここでロープを仕舞う。涸沢への下りは、気温が上がったため斜面の雪が少し緩くなり、意外と歩きにくい。
尻セードで下るひともいるが、とめられなくて前の人にぶつかるひともいる。12時、テントに帰着。本日中に横尾まで下ることにする。何せ重荷であるから、一日で上高地まで下るのはキツイ。登りのとき、ほとんどトレースがなく苦労した冬道は、しっかりトレースされて楽であった。夕方、横尾に到着。小屋でワインを購入、残雪の穂高を楽しめたことに乾杯!!とした。

<コースとタイム>
 2日 :上高地(11:15)―横尾(16:20 テント泊)
 3日 :横尾(6:00)―涸沢(11:30 テント設営)
 4日 :涸沢(4:15)―北穂東稜登攀―北穂小屋(8:20-40)―涸沢岳(15:50-16:00
    ―奥穂高岳山荘(16:20-40)―涸沢(17:50)
 5日 :涸沢(5:00)―奥穂高山荘―奥穂高岳―奥穂高岳山荘 ―
     涸沢(12:00-14:00 テント撤収)―横尾(16:40 テント泊)
 6日 :横尾(6:00)―上高地バス停(9:50)

 
北穂高岳より前穂北尾根を望む   北穂高岳より槍ケ岳と大キレットを望む
 
北穂〜涸沢間で滝谷側へ20mの懸垂下降   涸沢岳より、槍ケ岳・北穂高岳方面の眺望
 
涸沢岳より奥穂高方面。眼下は白出のコルの穂高岳山荘。   奥穂よりジャンダルム・西穂方面

 


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