■1月の阿弥陀岳・南稜   

藤野孝人

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P2   最後の核心部。岩場基部のトラバース

 阿弥陀岳南稜は、青ナギ付近から見上げる阿弥陀岳〜P3〜の稜線の眺めが、私のお気に入りで無積雪期はもう何度も行っている。しかし、どういう巡り合わせか、冬季はいつも予定日が悪天候となり見送ってきた。今回も1月20-21の土日、山仲間のMさんと二人でテントを担いでの一泊二日で計画したところ、日曜日は「雪」の予報。さてどうすべきか? 思案の結果、金曜の夜発として登山口近くで車内泊とし、翌日、軽荷で一気に阿弥陀岳まで登り、うまく行けば下山。時間的に下山できなければ、赤岳鉱泉泊まり、として決行することにした。 1月19日(金)の夜、車にて凍結した舟山十字路に入る。車内でお湯を沸かすと寒くはない。アルコールの眠り薬が良く効いて、翌朝4時目覚まし時計に起こされる 。隣に新たな車が駐車していた。しっかりお餅の朝食を食べて6時に出発。隣の車は起きたようだが、まだ車から出てこない 。一番のりで出発だ。非常用のツェルトは持っていくが、1日で抜ける計画であるから早く行かねばならない。

 しかし林道のゲートを越えると、大きな鹿の足跡のみでトレースがない。やがて林道と分かれると雪に埋まった沢を渡る。いよいよ尾根への取り付きだ。急登であるが距離は短く、30分ほど奮闘すると尾根に出た。尾根にもトレースがない。これでは途中で敗退かな? と思った。しかし覚悟を決めて、だらだらと長い登りをMさんと先頭を交代しながら根気よく歩む。立場山付近で一本立てていると、重荷を背負った男性二人が登ってきた。深夜に隣に駐車したパーティであった。彼らは阿弥陀の山頂、または阿弥陀岳を越えてからテントを張るという。「ラッキー」と思った。「ではこれから先はラッセルをお願いします」と言うと、「それがもう一人いるのですが、遅れていますので、・・・」となんとも歯切れが悪い。「まあ、そうおっしゃらずに・・・」と私。「クスン」と先方のセカンドが笑った。ともかく、男性の二名に先に行っていただいた。振り返ると、なるほどもう一人やってきた。追い抜いてもらうが大変ゆっくりだ。しばらく行くとこの遅れた仲間を待つためか、先行の二人が休んでいる。しかたなくまた我々が先行する。膝上まで没するようになったのでワカンに履き替えて歩を進める。青ナギ付近で一気に展望が開けた。この付近からの眺めは何度見てもなかなか見事だ。見とれていると3人組に続いて、新たな5人組がやってきた。ここから5人組、3人組、我々の順となる。後からついていくのが最も楽だ。ひと登りすると無名峰に到着。ここで全員、一本立てる。ここからの権現岳はなかなかよい眺めだ。

 無名峰からは、まずは私が先頭に飛びだす。ともかく我々は途中では泊まれない。山頂を抜けるのだ、という強い思いをスタートにぶつける。次いで3人組、5人組となる。しかし、直ぐに胸の高さまである雪壁にぶつかり苦戦した。すると後続の3人組のリーダーが「替わりましょう」と前方に出てくれた。3人組に火がついた! 彼らは本領を発揮した。3人組の二人が交代でラッセルする。我々とは馬力がまったく違う。腰までもぐる個所もあったが、二人が何度も交代しながらクリアーした。振り返ると5人組は、尾根が少し広くなった場所でテントを張る準備に入った。

 無風快晴でラッセル車付きの稜線は、誠に快適で右手に赤岳を見ながら歩を進める。P3の基部を左から回り込むルートも彼らがラッセルしてくれた。ルンルンと核心部の樋と呼ばれるルンゼに到着した。見上げると、もともとロープを出そうと考えていた個所ではあるが、設置されていた固定ロープが雪の下で見当たらない。先行の3人組は、アイゼンとピッケルでどんどん登って行く。これを見たMさんが、「ロープは無しでも行けます」と力強い発言。力量は分かっているので「ヨシッ!! 」と、我々もアイゼンとピッケルで登って行く、上部の草付きもアイゼン、ピッケルが良く効き、一歩一歩登っていく。

 かくして稜線に飛びだした。あとはルンルンである。しかしながらしばらく行くと、予想外の悪場があった。無積雪期にはそんなに悪い印象はなかった、岩場の基部をトラバースする個所である。取り付きから見える範囲では足の置ける幅は10cmから5cmほどだが、足元の下は切れている。ロープを出さずに取り付いた先行組が、途中の残置シュリンゲがぶら下がっている個所付近で止まった。「ザイルを出しますので少し待ってください」と我々に。「どうぞごゆっくり。我々もロープを出します」と私。先行組は3名が狭い場所で身体を確保しながら、大きなザックからロープを出して準備をはじめた。我々は取り付き点で場所は広い。ハーケンが1本あったので、ここを最初の確保点として、8.5mm×50mロープをセットした。随分待って、ようやく先行組が通過した。これをみて先ずは私が行く、確保点がハーケン1本であるから絶対に落ちられない。岩に正対して一歩一歩慎重に足を運ぶ。良く見ると岩に凹凸があるのでこれをホールドにする。中間点の残置シュリンゲを掴んでヌンチャクを掛け、ロープを通すが、5mmで 心もとない。この中間点の向こう側は足場が更に細かった。なるほど、これでは慣れていないひとは動けないだろうと思った。これをクリアーすると通常の斜面となる。先行組はボディビレイをしていたが、下り斜面であることから、より確かなピナクルを使うことにして、適当なピナクルにテープシュリンゲを2本セットして確保点とする。まずはセルフビレイをとり、ロープをたぐって確保器にセット。これで安心!!「OK!! 登ってOK!!」と叫ぶ。Mさんは無事登ってきた。

 あとは、どんどん登るだけ。ちょっとした岩をクリアーして見上げると、すぐ上の雪の斜面に先行組の大きな足跡がボカボカと続いており、その上は空である。ヨシッ!! これを登ると山頂だと思うと力が出た。一歩一歩行くと思ったとおり阿弥陀岳山頂であった。
お地蔵さんが雪から顔を覗かせていた。時に16時30分。もう力のなくなった太陽であるが、八ヶ岳の山々を照らしているのが美しい。眺望を楽しんでから、赤岳鉱泉に泊まることにして、まずは中岳のコルを目指して急斜面を下った。この下りは雪質が大変悪く、一歩を踏み出すごとに足元の雪が大量に流れていく。アイゼンもあまり効かない。急斜面であるからこの雪質では滑落すれば止められないだろうと、慎重に歩を進める。やがて中岳のコルに到着。まずは一本立てる。もう既に17時を回ってしまったことから、これより行者小屋まで最短コースを採ることにした。雪崩れ注意個所の通過である。菓子を食べお湯を飲み一息入れる。日没にそなえてヘッドライトを首からぶら下げ、点灯することを確認。次いで雪崩れにそなえて二人は数十mの距離を置くこと、静かに進むこと、を確認して行者小屋を目指した。途中、点灯して無事、真っ暗な行者小屋の前に到着。ザックを下ろすと、隣に見覚えのある重荷のザックを背負った3人組がいた。まさに出発寸前であった。これより美濃戸に下るという。御礼を言って分かれたが、若者は元気だ。

 我々は無事、赤岳鉱泉に到着。夕食時ワインで乾杯!! 満足感で一杯であった。

【コースとタイム】

◎20日:舟山十字路(6:00)―南稜取り付き(7:00)―尾根に出る(7:30-35)―立場山(10:30)―青ヤギ(11:15)―無名峰(11:50-12:00)―P3取り付き(14:20)―阿弥陀岳(16:30)―中岳のコル(17:15)―行者小屋(18:00-05)―赤岳鉱泉(18:40/宿泊)
◎21日:赤岳鉱泉(7:35)―美濃戸(8:45)―美濃戸口(9:30)(タクシーにて舟山十字路に入り、車を回収)

 


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