■上越・荒沢山(1303m)  赤澤東洋


07.3.10 単独
コース:土樽駅〜カドナミ尾根〜荒沢山 往復  (写真左:荒沢山から望む足拍子岳、右:荒沢山頂上直下の岩場)

 

 JR発足20周年という事で、青春18キップが今回は8,000円になるという。これは朗報。利用しない手はあるまいと、どこか日帰り登山で効率良い山はないかと探し出したのが、土樽駅前の荒沢山である。本当は里からみてもずっと見栄えの良い、足拍子岳にしたかったのだが、単独でもあり日帰りではキツそうなので、とりあえずは100m低いお隣の山へ登って様子を探る事にした。上尾駅5:48の電車に乗り、高崎、水上と乗り換え、土樽駅には8:35に着いた。国境の長いトンネルを抜けても雪が無い。いつもなら今頃は2メートルを越す深い雪に覆われているプラットホームなのだが、今年は本当に暖冬なのだ。他には誰も降りない寂しい山の駅。
 
 駅前の関越自動車道に沿って、水上方面に少し戻り魚野川の橋を渡って左折する。所々残雪の残る舗装された林道を200m程歩くと、右手に山小屋風の建物があり小さな看板には「炭焼体験小屋」と書いてあった。炭焼窯がありすぐその裏からカドナミ尾根となっている。9時丁度取り付く。ナラやコナラの広葉樹林帯で、さすがに山の中には20〜30cmの雪があり先行者が1人いるらしく真新しい踏み跡が付いていた。物好きはどこにもいるものだと可笑しくなってくる。アイゼンもワカンも着けずツボ足でのいきなりの急登で、ここの取り付き標高差100m余りが、一番キツい登りであった。樹林帯の中なのだが、日差しが眩しく、「今日は日焼けしそうだなあ。今度休憩したら日焼け止めクリーム塗らなくちゃ」と思う。振り返ると土樽駅の後方に棒立山が尖がっていて意外に恰好良く見える。タカマタギの前衛峰位にしか考えてなかったので、「へぇー」と見直してしまった。
 
 雪は少なくラッセルしないで済むのは、単独行者には大助かりだが、段々と木枝が密生してきてザックが引っかかるのが、面倒である。特にサイドに括り付けたスノーシューが邪魔だ。ピッケルを杖にし一歩ごとに枝や幹にすがり付き、息を整える。取り付きから2時間弱で見晴らしの利く尾根に出た。いつの間にか薄く雲がかかり、折角の谷川連峰が霞んでしまったのが残念である。ここまでくると背後の棒立山はまったく平凡になり、その奥のタカマタギや日白山が目を惹くようになる。間近の足拍子岳も尖がってきて、サマになってきた。石楠花やイヌツゲの密藪を払い、掻き分けていくと先行者が引き返してきた。「お早いですねえ」と声をかけると、「この先はますます藪がひどくなるので途中から引き返してきました」という。「あと100m位だったと思うけど、今回はあきらめます」と言って下っていった。私よりも一回り位は若そうで、ワカンやスコップを括りつけ、装備もしっかりしていて相当に山馴れた方とお見受けしたのだが、それが引き返してくるのでは、こちらもどうしようかと一瞬考え込んでしまった。しかしまだ昼前だし、天気もまずまずだし初志貫徹とばかりそのまま突き進む事にする。

 その先は確かに藪が濃くなり、尾根も痩せてきて、雪庇を踏み抜かぬよう慎重に進む。只、掴む枝は豊富なので、緊張するほどの事もない。彼が引き返した地点を過ぎると、トレースが無くなり自分でルートを決めていかねばならなくなったが、尾根筋を外さないように行くだけだ。その内あまりに頻繁に枝を掴むので、大事にしていた毛糸の手袋に穴が空いてしまい「もったいなあ。藪漕ぎにはやっぱり軍手の方がよかったかなあ」と思う。年金生活者となり手元不如意となると、どうも考える事がミミッチくなってしまう。

 やがて荒沢山から足拍子岳へと続くホソドノ尾根が目前に迫り、もう間もなく頂上だろうと思った矢先、想定していなかった岩場に行く手を阻まれ「アレッ」と戸惑ってしまった。普段なら深い雪にスッポリと埋もれているに違いない、わずか数メートルの小さな露岩だが、スリップしたら命は無い。中途半端に雪が付着し、滑りやすいので細心の注意を払い三点支持で何とか乗っ越した。こういう時、クライミングをやっていて本当に良かったと思う。 岩場を過ぎると間もなくして頂上に着いた。丁度12時半、取り付きから3時間半の行程だった。何本かづつ群生しているキタゴヨウマツの大木には、2〜3日前の雪がたわわについてたままになっている。冷え込んでいれば、樹氷となるのだろうが、今日は暖かいのでもう融け始めている。三角錐状の足拍子岳は昂然と聳え、近くの大源太山に似て個性的でなかなかの見栄えである。こちら側からではとても登れそうには見えないが、近いうちに必ず登る事を誓いルートを探る。やはり南尾根が良さそうだ。生憎薄い雲がかかり、万太郎や仙ノ倉などの谷川連峰の眺望がいま一つくっきりしないのが残念だが、晴天なら上越国境の山々の展望台としてうってつけの山であることを確認した。帰路は先の岩場をさらに慎重に乗っ越して、一時間半で炭焼小屋まで駆け下り、15:22土樽発の電車を?まえることが出来た。18:05上尾着。荒沢山は人里近い割りには、荒されてなく静かな山旅を楽しめるいい山だった。それなりに緊張する場面もあり、今の私には丁度手頃な日帰り登山であったかと思う。

 


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