◆4月の「小同心クラック」登攀 (ガイド山行)  藤野 孝人

  4月15日、小同心クラックを登攀する機会を得た。もともとは山仲間のMさんが、「阿弥陀北西稜をやりたい」と相談があったのがきっかけ。とても私がリードできるところではないので、ガイドの西村豊一さんを紹介した。当初は2月の予定であったが、天候不順が続き流れに流れた。その結果、4月14-15日で、ガイドさんにお世話になり、仲間3名で、阿弥陀岳北西稜をやることになった。

  14日、美濃戸より今夜の宿の赤岳鉱泉に向かった。北沢を渡る二本目の橋で、突然正面に、大同心、小同心が姿を現した。真っ白なその姿が誠に美しく、登攀意欲をかきたたせた。これが強烈で、赤岳鉱泉に入ってから相談の結果、阿弥陀の北西稜は来年へ先送りすることにして、今回は「小同心クラック」をやることに決定した。言わば、目移りしたのだ。かくして15日の早朝、アイゼン、ハーネスをつけて赤岳鉱泉を出発。先ずは大同心に向かう。硫黄岳へのコースから別れて大同心沢に入る。沢と言っても全面に雪が積もっており多分水も凍結しているのだろう、水が流れている気配はない。これを200mほど行き左の大同心稜に入る。トレースはないが、幸いに雪がよく締まってもぐらない。上部はかなりの急登でカチカチに凍結している個所もある。やがて急登が終わると大同心の基部に到着。この基部のバンドを右にトラバースして小同心に向う。トラバースの雪は結構いやらしい。

 やがて、小同心の取り付きに到着。広くて安定している。急いでお湯を飲み、行動食を口にする。登攀の準備をしていると、ロープを引いて後続がやってきた。ガイドさんらしいひとが肩がらみ確保してお客を引いている。登攀起点のビレー点にはハーケンが2本。これにビナを掛けテープシュリンゲをセットして私がガイドさんをビレーする。我々のザイルは2本。1本は5.11を登れるという若手のUさん。他の一本に岩が大好きな女性のMさんと私がつながる。

 1ピッチ目:「W−,40m」ガイドさんが岩に取り付く、スイスイと登って行く。見上げると顕著なチムニーがあり、このなかへ入って両足を広げてスイスイと登って行く。やはりうまいものだ。やがて、「ビレイ解除」の声。我々の一番手はUさん。アイゼンを鳴らして登って行く。次いでMさん。その5m 後ろにラストの私。ホールドはしっかりしており、グイグイと行けるが、岩が立ってきたのでオーバー手袋を外した。ところがインナー手袋になると、岩が氷のように冷たいのだろう、直ぐに指先がしびれてきた。するとホールドを掴んでいても掴んでいるという感覚が得られない。核心のチムニーに取り付いたが、頼りないことこのうえない。掴んだホールドを目でしっかり確認して、「大丈夫か?」「 大丈夫! 確かに掴んでいる」と自分に問いかけて自分で答えて登っていく。ホールドは多いが、しびれた指とアイゼンでは簡単ではない。気合を入れてクリアした。

  2ピッチ目:「W−.35m」はいきなり狭いチムニーである。ガイドさんは難なくクリア。次いでUさんもなんとかクリア。岩大好きのMさんは奮闘して膝も使って何とかクリア。最後に私。あと10cmほどひろければ楽と思うが、狭くて身体を動かせないので苦労する。少しもがいて何とかクリア。幸いにチムニーは距離が短く助かる。3ピッチ目は優しい。これを登攀し、今度はそのまま横岳の山頂を目指す。雪面となりコンテでしばらく行く。やがて山頂直下20−30mのところのビレーポイントに到着。ここでビレーして、最初と同様、まずはガイドさんが行く。直ぐに「ビレー解除」の声。これを聞いて3名が順に行く。ガイドブックによると「V+」であるが、もっと易しい感じだ。登っていくと横岳山頂に飛び出た。終了点が山頂というのは実に気持ちが良いものだ。しばらく休憩後、下山にかかる。下山は硫黄岳方面に少し行き、コルより「大同心ルンゼ〜大同心稜」のコースにて赤岳鉱泉に下った。ザイルは出さなかったが、ルンゼでは懸垂下降をしたいような個所があった。

  4月のこの時期で、風も弱く快晴であったが、岩は冷たく最初のピッチはインナー手袋をしていても指先がしびれた。この分では、厳冬期はなかなか大変と思われた。

〔コースとタイム〕
14日:美濃戸(13:40)―赤岳鉱泉(15:30/宿泊)
15日:赤岳鉱泉(5:55)―小同心クラック取り付き(7:30-40)―横岳(9:45-10:10)―赤岳鉱泉(11:10-12:05)―美濃戸(13:10)

 


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