◆奥多摩・越沢の沢登り 大塚忠彦

【期日】2007年5月12日  【メンバー】西山(L)、赤澤、藤野、大塚。柴村、玄(ゲスト、東京山楽会)


F6・15mをアブミの掛け替えで登る

 五月晴れの一日、西山さんのご案内で出かけた。お誘い文には「ちょっとアブミの掛け替えの練習でも」と気軽な
タッチで書いてあったが、とても左様なシロモノではなかった。越沢というのは岩登りで有名な越沢バットレスの奥
から流 れだして、青梅線「鳩ノ巣駅」で多摩川に合流する流程僅か3kmほどの短い沢である。源流部には日本武
尊創建と伝えられる御岳神社を祀る霊山、御岳山がある。

 青梅線鳩ノ巣駅から歩いて30分程の越沢本流に下った所から、右岸の小さな支流に入った。入り口にはポンポン
(イタドリ)などの雑草が生い茂っていて、間口1mもない狭さである。水もチョロチョロと流れているだけの荒れた田んぼ
の「畦川」という体たらく。「西山さん、これが沢なの?」。ところがドッコイ、一歩足を踏み入れた途端、これはタダモノで
はないことが分かった。オット驚く為五郎。水流は少ないが、狭いゴルジュの両側が屹立した井戸の底。登り詰めれば
裏側からバットレスの天辺に出るという。なるほど、ガイドブックにもこの支沢の方を仮名「本沢」と書いてあった。水流が
多い本流の方は滝も無い凡沢だから、こちらの支流が実は「本沢」かもしれない。

  沢登りというよりも、水が流れ墜ちる垂壁の岩登りという感じ。折から五月晴れ、頭上の若葉を透かして差し込む太陽
が眩しいが、滝の飛沫に打たれて待っている身には寒くて堪らない。F1からF3は難なく突破。続くF4・6m「仙人の滝」
から上がこの沢の核心で、アブミの掛け替えの連続となった。最後のハイライトF6・15m「行者の滝」は如何にも白衣の
行者が滝に打たれて行を行うに相応しい雰囲気。ここは初っ端のハング状を乗り越すのに苦労した。1本目のアブミに掛
けた体が後に寝てしまって次のピンまで手が届かない。待っている人が尻を押し上げて乗り越させる。おまけに滝の落ち
口ではハンドホールドが無く、逆さになって足から滝上に這い込む始末。

 それにしても西山御大、よくもまあこんな凶悪な壁をリードしたなア〜。流石沢のベテラン。河童かサンショウウオの生
まれ変わりではないか。鯉の滝登りというのもあるから、歳を経た鯉が竜神となって昇天したご落胤か。或いはタコの
吸盤をどこかで密かに手に入れているのではあるまいか。
 人数が6人と多かったこともあって、F6だけでもこれを突破するのに2時間を要した。たった1kmほどの沢を詰め終る
のに合計5時間半も掛かった。足が揃った2人パーティーなら1時間半だそうだ。
 かってギャチュンカンで凍傷を負った山野井泰史・妙子夫妻が仮住まいをして傷を癒したという廃屋が一軒ポツンと建
っている台地に出て遡行終了。近くには「お宮のハング」や「滝ノ下ハング」などのオーバーハングの岩場もあった。
凍傷で指を失った彼らは再び立ち直るべく、ここで練習に励んだのだろうか。
 ハイキングコースとはいえ険峻な尾根道を越沢バットレス下に下り、鳩ノ巣駅前の食堂で反省会。未だ高い西陽を浴
びながらのビールが美味かった。始終リードしてくれた西山御大に多謝。  (滝のグレード:F6・15m 4級A1)。

 


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