【大峰山・奥駈修行体験記】 別所宗郎

 紀伊半島の背骨になっている大峰山脈は、東北の出羽三山などと並ぶ日本最古の修験道の山。毎年、春から秋にかけて、
この山脈の尾根伝いに、南の熊野と北の吉野から、さまざまな奥駈修行が行われている。7月初旬、その中の一つ「蓮華入
峯修行」(れんげにゅうぶしゅぎょう)に参加した。これには3年前から申し込んでいたが、些事に追われて実現できないでいた。
今年も春に体調を崩したため懸念したが、どうしても参加したかった。
 この修行は、吉野の「金峯山寺」(きんぷせんじ)に伝わる伝統行事。山麓の池で採取したハスの花(蓮華)を山頂の大峯山
寺へ届けるもので、修験者のほかに一般人の参加も認められており、今年は47人の参加者(新客と呼ぶ)があった。
 「修行」と銘打つだけあって、古くからの厳格な作法に則った2泊3日だった。初日の7月7日、吉野に着き、白い地下足袋と
金剛杖を買い求めて宿坊に集合。大広間で行の説明を聞き、精進料理の夕食を取る。この間約2時間、正座したままで、
私語は禁止、膳の器が触れ合う音しか聞こえない。午後9時消灯、午前2時に起床する。
 2日目、真っ暗な中を灯りは一切使わず「金峯山寺」蔵王堂を出発。「山上ガ岳」(1719m)まで、標高差1400メートル、24キロ
の修験者の通る道を、途中10カ所ほどの拝所で数分間の勤行を勤めながら、早足でスタスタと歩く。途中、立ったままの小休
止(隊列のまま無言、無動)を数回、10分間の大休止を3回とり、持って出た3個のおにぎりを1個ずつ食べる。
 歩いている途中、私は先導者から2回注意を受けた。細い道を1列になって進むが、前の人との間を空けてはいけない。ほと
んどが壮年者の中では、ついスピードに置いて行かれる。日頃の自信がぐらついてきたころ、数人がリタイアを申し出た。先導
者は「ほかにはいないか」と言って、私をジロリと見た。ここまで来てリストラに遭うわけにはいかないので、ソッポを向いて「這っ
てでも行く」と決心した。結局9人が諦めたとのこと。
 13時間ほどを歩き続けて山頂近くに来ると表の行場があり、そこでの行が待っていた。2、3度冷や汗をかかされて、山上の
宿坊に着いた。ザックを下ろしてやれやれと思う間もなく今度は裏行場での修行に行くと言う。結局、真夜中の出発から15時
間の厳しーい修行を体験した。
 山上の大峯山寺を挟んで表と裏にある行場の中でポピュラーなのは表の「西の覗き」。断崖絶壁から肩掛けした1本の綱で
上半身を放り出される修行だ。高所には自信があるので「なんてことはない」とタカを括っていたが、数百メートルはありそうな
谷底を見たときには、さすがに怖かった。綱を持つ修験者が何か言ったようだが、夢中で聞こえないまま「はい」と答えていた。
 裏行場は格好の岩登りコース。2カ所ほど足下が切れ落ち、空中に身を投げ出すようなポイントがある。ノーザイルでの登攀
なのでスリルが味わえる。表・裏の行場での修行を終えると「即身即仏」の体現をした者とされるという。
 山上の宿坊では洗面器1杯の水で体を洗い、精進の夕食のあと前後不覚で眠った。最終日は近くの下山ルートを経て、バス
で吉野に戻り、精進落としの昼食を終えて解散した。
 今回私が参加した修行は女人禁制だが、このほかにも金峯山寺が主催する行事がいくつかあって、女性の参加できる修行
コースもある。興味のある方は金峯山寺(電話0746―32―8371)に問い合わせると良い。

 


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