◆槍ヶ岳・北鎌尾根 −日本離れした岩の王国− 杉坂千賀子

◎日程:平成19年9月22日〜24日
◎メンバー:杉坂千賀子他1名
 
コース:9/22・・中房温泉〜合戦尾根〜大天井ヒュッテ〜貧乏沢〜北鎌沢出合(泊)
      9/23・・北鎌沢出合〜北鎌コル〜北鎌尾根〜槍ヶ岳〜ババ平(槍沢キャンプ場)(泊)
      9/24・・槍平〜横尾〜上高地


         (北鎌平からの槍ケ岳)

 北鎌尾根は往年の名ルート、クラシックルートでその名を知らない者はいないだろうが、わたしにとっては縁の
ない難しいところだろうと思っていた。そこへかつて所属していた会のメンバーから沢でもいきましょうという話で、
季節が過ぎていこうとしていたところ突然北鎌計画を誘われ、チャンス!と思う半面「行けるかな、大丈夫かな」
と心配しながらの出発となった。

 ムーンライト信州は連休のせいか登山客が予想外に多かった。連日の忙しさが幸い?してか思ったよりよく眠
れた。穂高駅も15年以上ぶりだ。まだ薄暗い中、接続しているバスというかタクシー会社が運営のマイクロバス
に乗る。中房温泉ではすでに朝食をとっている人々でいっぱいだった。この人たちが大挙して合戦尾根を登りは
じめないうちに行くべし、と手際よく朝食をとって出発した。と、登り始めたものの渋滞になる。この日は北鎌沢の
出合までの予定だから少しの時間が惜しい。先に行かせてもらいながらまた抜かれるのを嫌って休憩はほぼ2
時間に1回のペースに。結果、コースタイムを1時間ほど縮めることができ、これは大きかった。

 天気は歩きはじめはうす曇りだったが次第にもっと曇ってくるが、炎天下よりは歩きやすかった。燕山荘からは
花崗岩の砂礫のプロムナード道でますます快調に。北鎌尾根が見えるが槍の穂先は雲の中だ。大天井ヒュッテ
につく頃天気は快晴に。小屋を使用して北鎌尾根に行く場合はおおかた大天井泊まりのようだ。ここで大休止を
する。北鎌尾根の整備はこの小屋がされているとかで挨拶をして貧乏沢に向かう。貧乏沢の下り口はわかるの
かなー、と思っていたら木の小さな看板が何気なく置いてあり「貧乏沢入口」のようなことが書いてあった。地形
図を見るまでもない。

 最初は藪の薄い沢形を降りる。石がごろごろしていて歩きにくい。藪こぎまでいかないけど歩きにくい。そして
次第にがれきの沢と化し、すべてが崩れそうだ。落石は厳禁だが積み木の沢で、今考えると北鎌そのものより
ここが一番緊張していた。道は概ね沢身(ガレ、枯れ)だが、右から水勢激しい沢を合わせてから左岸をときおり
巻くようになる。といっても歩きやすい沢際を降りる感じでさほど遠ざからない。天上沢に出合う手前で幕営予定
の北鎌沢の出合いは水が伏流でない、とかでたっぷり汲む。天上沢は一転して開ける。どこを歩けばいいのか
わからないくらいの河原を行く。北鎌沢出合い付近にはすでに2,3パーティが幕営をしている。こんな広いところ
にせせこましく張るのはどうか、といろいろ検討するが明日は出発ではまずヘッデンだろうしずっと様子を偵察で
きるという理由もあって北鎌沢の真正面に張る。

 翌朝2時起床。多パーティを嫌い渋滞を避けるため、気合の起床でそのためか3時にはもう出られる状態に。
他に行動開始するパーティはなく早々に出発する(3:15)。北鎌沢のポイントは取り付きを間違えないこと、左俣、
左沢に入らないようにすること。ヘッデンをつけながら地図と高度計で慎重に登高する。水はないかと思われた
が、登りはじめて20mくらいの地点で出ていた。本流を下がって水を汲みに行くパーティが大方だったが、知っ
ていればこちらのほうが近かったろう。が年、時期によって状況は不確定と思われる。暗いから夢中になって登
っていたが明るかったら結構高度感があるのでは?大きな石をえっこら越える感じ。途中一箇所どうしても手が
届かなくてお助け紐を出してもらう。暗いせいもあろうが結局休憩することもなく最終的には右めに登路をとり、
最後はふみ跡を追う感じで難なくコルに出た(5:20)。なんとコルにも2張り。休憩するつもりがわずらわしいので
歩を進めちょっと先でようやく1本。

 太陽がやっと出てきた。そこから先は踏み跡をたどるかもしくは稜線の岩稜をたどるかだが、視界がそんなに
悪くなければ、また方角さえしっかりとらえておけば間違えることは無いと思う。独標は右から巻く。たしかハー
ケン2本くらいのあやしい支点緑色のヒモのフィックスがあり高度感があった。あまり高く足場をとるとよくなさそ
うだった。あとは一箇所ハーケンを横目にバランスで登る一歩があったが慎重に登ればさほどのものではなか
った。(どのあたりだったかは不明)

 同行のO氏はできれば岩稜を行きたいとかの場所を私が省エネのため巻いたり、思い思いに歩を進める。
やがて北鎌平だ(9:56)。思ったより広い。5,6張りは張れるのでは?正面に槍の穂先が大きい。先行パーティ
がロープを出しておりコールが聞こえる。付近は大きな石が山積している上は傾斜のある蓼科山の山頂のよう
だ。ほどなく3級程度といわれるチムニーに着いたが、同行者はするりと登ってしまい、「右から巻いても」といわ
れるがなんとかなるかなと凹角の中には入り混まずその右側を割れ目のようなフレークのようなものをつかんで
登る。山頂には人がたくさんいるのか、姿はなけれど声がたくさん聞こえてくる。わりと左目に回り込んで岩をが
しがし掴んで登ったらそこが山頂だった(11:00)。

 ガスで、まったくなにも見えず、噂では北鎌尾根から上がってくると登山者から拍手をもらえるとのことだったが、
皆の関心は次々と登ってくる欧米の外国人にあるようだった。座る場所を探して戸惑うくらいの混雑。人は多いし
身の置き所なく戸惑いながらとりあえず握手をし、しばらく休憩。垂直の鉄はしごで下るがほとんどの人が空身の
中ザックごと振られて落ちるのは避けたいところ。かえってこういうところのほうがロープがほしい。合間を見て下り、
肩の小屋で大休憩。殺生ヒュッテでビールを買って槍平まで下る。途中水俣乗越へ出る沢を確認し案外長く感じ
つつも到着。幕場は大混雑だった。翌日は勝手知ったる上高地まで。土木工事現場と化した梓川を横目に早々に
下りた。

 全行程カラリと晴れたときはなかったが雨具を出さずにすんだし、天気はまあまあよかった。体力勝負と言われ
かなりプレッシャーだったが、今年は結構歩いていたので思ったより楽だった。夏の炎天下だと水が取れないプ
レッシャーとかいろいろあって大変かもしれない。時期としてはちょうど良かったと思う。が、同行の氏によると昨
年は10月連休に北鎌尾根に入ろうとして雪となり転進したそうである。天気の見極めは必須。北鎌尾根はいっ
たん入山したらおいそれと逃げられないというプレッシャーがあったり、水がとれない、などと制約もありきちんと
心構えして臨まないといけないところでまたそれがなんとも良いのだと思う。今回自分がルートファインディングし
ていないのでなんとも言えないが、さほど道はわかりにくいとは思わなかった。というか、もともとそんなにはっき
りしていないので山域を大きく捉えている目と、直感的な安全策をとれる身のこなしがあれば大丈夫という感じ
か・・。なにしろ2万5千図で現在位置を特定しようとしても、岩マークがごちゃごちゃしてなんだかよくわからない
や、と思ったので。体力があれば余裕を持って周囲を見回せる、そんなところでしょうか。
ともかく、人は多かったのだろうが、それでも静かな山を楽しめたと思うし、岩の王国、と言ってもいいような独特
の雰囲気は日本離れしているし、行ってよかったな、とつくづく思った。

 


個人山行報告目次へ     HOMEへ