◆笛吹川釜ノ沢:遡行と下降 −千畳のナメ、2度味わう− 金田安代

 地元で開催される「三河高原トレイルランニングレース32km」が10日程に迫ったころ、シリウスの仲間・矢澤昭文
さんから、笛吹川の釜の沢に行かないかと誘われた。レースに向けてのトレーニングが気になったが、「とても美しい
沢みたいだ。」のことばと笛吹川という名前に惹かれ行くことにした。当初は沢を遡行し甲武信小屋前にテントを張り、
翌日甲武信岳を登頂してから下山という1泊2日の予定だったが、同行するリーダーの仕事の都合がつかなくなり、
日帰りということになった。

 9月22日の夜、西沢渓谷入口の手前に着き車中で仮眠した。翌朝は曇天だった。林道をしばらく歩き二股の吊橋
を渡った後、踏み跡をたどり河原に下り立った。この辺りの山域は初めてである。東京で学生時代を過ごしていたら
しいリーダーの初登山は甲武信岳だったようだが、「35年も前のこと。」と言う。慣れない地域は土地勘も鈍く、おま
けに一般道ではない。コピーしてきた案内文を読みながら上流に進み、鶏冠谷と書かれた標識から山道へ入った。

 すこし登ってから踏み跡を辿り左側の沢に下り、いよいよ遡行だと意気込んだ。のもつかの間、やがて10m余の滝
に行く手を阻まれた。左側の岩場を高巻くことに決め、ロープを出してリーダーが登ったが、すぐに下りて来た。そして
「こんなに困る所はないはずだけど・・。」とつぶやいた。後ろから2パーティがやって来た。そのうちの一人が「どうもち
がうなあ。」などと言っていた。すると右側のすぐ上を普通に歩いていくパーティがいた。先の者が「やっぱりまだ山道
を山ノ神まで行くのだ。」と言った。ガレ場を登り山道に戻った自分たちは、荷物が軽いのでトレイルランニングのトレ
ーニングのつもりで、また思わぬ時間を喰ったという気持ちもありペースをあげた。

 沢沿いに付けられた道を進み、左側に小さな祠、山ノ神を確認してまもなく沢に入った。左右から流れ込む沢を見な
がら幾度か徒渉を繰り返しつつ上流に進んだ。言われたとおり美しい沢だった。特に、魚留の滝を越えた後に現れた
千畳のナメは嬉しくなってしまった程だ。そして両門の滝、圧巻だった。
 しかし美しいのはそこまでだった。やがて沢は荒れてきた。倒木や大きな岩を越えて行った。また空模様も徐々に
悪くなっていて沢を見上げるとガスっていた。案内文にある4段ナメ滝を越え、さらに詰めると沢が左右に分かれ真ん
中に一本の木、その幹に古いプレートが付いていて赤い矢印が右を示していた。しかし、その右の沢は岩がごろごろ
しており明らかに荒れていた。そして沢を左右に分ける尾根には踏み跡らしきものがあった。

  しばらく逡巡した後、その尾根に入った。その踏み跡らしきものはやがて左側の沢に入っていった。そのまま沢を
詰めていったがそれも荒れていた。また徐々に急峻になり、再び尾根に入ったが木々に行く手を阻まれた。天候は
悪化傾向で稜線も望めない。稜線まで出れば何とかなりそうだと思ったが、「沢をそのまま下ろう。」とリーダーの
判断。わからない所でこれ以上時間を費やせないということだった。最後になってまさに詰めを誤ってしまった。素直
に矢印に従えば良かったのだ。

 沢の下降が始まった。4段ナメ滝で3人パーティと出会った。彼らも途中で迷ったらしい。また少し下ると5人のパー
ティと出会った。今日は途中の河原でテントを張ると言っていた。私たちは明るいうちに下山できるのだろうか。千畳
のナメでは、こんな美しいナメ、2度も味わえるなんて嬉しいと思いながら下っていった。魚留の滝まで下りてやっと
ひと息入れたが、その先がまた長かった。二股の吊橋が見え、その河原でリーダーが足を滑らせて沢の中にドボン。
危なくない所で良かった。また何とか明るいうちに車に着いたので安心した。トレイルランニングのレースに向けて、
良いトレーニングになったと思いつつ岐路に就いた。ところで、甲武信岳の山頂はいつ立てるのかな?
  <記録> 5:50 西沢渓谷入口発  13:00ころ 下降を決める  17:40 西沢渓谷入口着

 


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