◆西穂高岳〜奥穂高岳縦走−8年目のジャンダルム−秋田勳男


          (ジャンダルムをバックに)

 携帯電話の目覚まし音に起こされ、眠い目をこすりながら窓から空を見る。曇り空に微かに星が瞬いている。
ヨーシ、これなら今日の縦走は実施できる。早速バナナで軽く腹ごしらえをし、山荘の前の広場で、これからの
長丁場に備えてストレッチ体操。先程見えた星は今は雲の中に隠れてしまった。雨よ降るなと願いながら未だ
暗い登山道をヘッドランプを頼りに歩き出す。

 独標で丁度日の出を迎えたが、雲が多く朝焼けのみのであった。ここで、山荘で作ってもらったオニギリで朝
食を済ませ20分程の休憩後西穂高に向かう。急降下の岩場だが足下もしっかりしており安心して下りられる。
山荘から約2時間半で西穂高山頂に着く。すでに山頂には一番乗りの単独行の男性が先着していた。この男
性はここから引き返すとのこと。山頂からは雲が多いものの槍ヶ岳・笠ヶ岳そして富士山が遠くに見える。目の
前には赤岩岳や間ノ岳の瓦礫のような山容が立ちふさがっている。ここでヘルメットを着装、先程の男性から
エールをもらい、いよいよ此れから本縦走の核心部に、期待と不安で思わず武者震い。暑くもなく寒くもない縦
走には最適の天候である。浮き石に注意しながら慎重に岩場のアップダウンを繰り返すと展望の良い浮き石
の塊のようなピークに着く。

  何の標識も無いが多分ここが間ノ岳の山頂だ。岩と岩の間に遅咲きの岩桔梗が咲いており、緊張で疲れた
目を和ましてくれる。相変わらず曇り空だが、ここからの展望も素晴らしい。先程通過してきた西穂高岳は登山
者で賑わっているのが見える。ここからの下りはさらに凄い、右前方に前穂の釣り尾根とその遥か下には梓川
が銀色の帯のように輝いている。遙か下の間ノ岳のコルから単独行の人が登ってくる、今日初めての奥穂から
の登山者だ。落石浮き石に注意しながら下る。天空のコル(?)からはガレ場の急登が続く、このガレ場はきつ
い、細心の注意を心がけ通過する。天狗岳の登りにかの有名な逆層スラブの岩肌が出現、結構傾斜がありそ
うだ。しかし取りつくと意外にスムーズに登ることができた。天狗岳の標識があるピークに到着、ガスで槍ヶ岳が
見え隠れしている。天候が気になるので5分程の休憩後、崖のような岩場を下っていく。岩稜帯のコ−スは足
下ばかり気にしているので、いつの間にかコースを外れてしまい○印の白ペンキは何処、何処だと探し回ること
になる。そんなことを繰り返していると鎖の在る断崖に出くわす。下が見えない。鎖を頼りに懸垂下降、途中オー
バーハングした岩場を下り天狗のコルに着地する。下から見上げるとほぼ垂直だ。山荘から丁度5時間、予定より
大分早い。此処には避難小屋跡があり、縦走路唯一の岳沢へのエスケープルートである、天気が悪くなったらここを
下る事にしていたが、下の方はガスで見えないがかなり厳しい急斜面のようだ。

 緊張の後のコルはまるでオアシスだ、ホットするとお腹の虫が鳴いている、ここで大休止しエネルギーを補給
する。コルからは通称バカ尾根と言われるコブ尾根の急登が待っている。辛い登りと下りが続く尾根、浮き石や
ガレ場の連続で先程補給したエネルギーを全て使い果たす程だ。本当に馬鹿尾根だ!モー歩きたくないと思っ
たら、目の前にガレた大きな岩の塊が、オーこれがジャンダルムか、広い岩場の広場ここがコブの頭のようだ。
アーア ヤッパリ年かと心で思いその場にへたりつく。ジャンダルムを目の前にとりあえず体力の回復を図ること
に。

 いよいよ憧れのジャンダルムに、傾斜はかなりきつく一見、登るのが難しそうだが山頂には分岐から5分位で
呆気なく登ることができた。時計を見ると11時57分、ついにあの坊主頭の天辺に立つ。皆なでヤッターヤッター
とVサインで記念写真を撮る、感激の一瞬ダ! 山頂からは登山客で賑わう奥穂高岳がそして最後の難所ロバ
の耳や馬の背が見える。感激の一時を過ごし名残惜しいがザックをデポした所に戻る。これから信州側をトラバ
ースし奥穂側に向かう。この先はスリル満点だ、足下は狭く遥か下まで垂直に切れ落ちており、ホールドにしよ
うとする岩もグラグラする。一つ一つ確認しながら体重を掛けていく。ロバの耳を登り奥穂側に下り、後を振り返
るとジャンダルムが西穂側とは違いほぼ垂直に切れ落ち、迫力ある姿を見せている。

 最後の難所の馬ノ背を望む小ピークで休憩。よくよく眺めると距離は無さそうだが両側に切れ落ちていて一瞬
躊躇してしまいそうだ。下を余り見ないように跨ぎ進むが岩もしっかりしており、恐怖心はあるものの途中からは
立って渡ることができた。でも奥穂からは下りになるのでさぞ怖いのでは。

 大勢の登山客で賑わう奥穂高岳山頂、西穂高山荘から約9時間、計画時間より1時間以上早く山頂に立てた。
同行者とお互いに握手を交わし、達成感と喜びを分かち合う。思えば、初めてこの山頂に立ち、ジャンダルムの
かの雄壮な姿を眺め、何時か必ずあのタコ入道のような頭の天辺に登ってやろうと思い続け8年目にしてヤット
念願を果たすことができ、今は充実感で一杯だ。これも日頃、シリウスの岩登り研修会等で技術力のアップ(?)
を図ったおかげです。諸先輩に感謝・感謝。同行者と縦走の成功を祝いまたもやVサインで記念写真を撮り山頂を
後に奥穂高山荘に向かう。山荘までの道が妙に楽に感じる。今夜はビールで乾杯ダー !!

<コースタイム>
9月23日  西穂高口13:15〜西穂山荘14:16
9月24日  西穂山荘4:20〜6:50西穂高岳7:10〜9:30天狗のコル10:05〜11:25コブの頭11:45〜
        11:57ジャンダルム12:08〜13:28奥穂高岳13:45〜14:14奥穂山荘  
9月25日  奥穂山荘6:05〜白出川渡河8:50〜白出沢出合9:55〜11:20新穂高温泉

 


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