◆厳冬期の北岳   藤野 孝人

メンバー:藤野、ゲスト松山秀美さん
山行日:2008年1月4日夜発〜7日

  
(ボーコン沢頭付近から北岳山頂とバットレスを望む) (同じくボーコン沢頭から八本歯ノ頭〔中央〕と右は北岳山頂)

                
 青空をバックに北岳の山頂がほんの少し見えた。ヨシッ! と、斜面を一歩、一歩登っていくと、姿がグン、グンと
大きくなり、そしてついに大きくて真っ白な北岳がその姿をすべて現した。雪をまとったバットレスが見事な眺めで
息を呑んだ。登攀したことのあるピラミッドフェイス、第4尾根、中央稜は気になり、何度も何度もそのルートを目で
追った。ベースの池山御池小屋を出て急登を3時間半、1月6日、午前10時、標高約2,800mのボーコン沢の頭に
到着した。あまりの見事さに30分も長居してしまった。
 これより展望を愉しみながらの稜線漫歩となった。我々の前後や間ノ岳方面の稜線には人の姿は無く、本日の
アタックは我々二人だけだ。年末年始につけられたトレースは風の影響でなくなりつつあった。踏み外すと膝まで
もぐるので、体力を消耗させられるし時間もかかるが、耐えるしかない。

 やがて八本歯の頭に到着。これよりこのコースの最大の難所である。今朝、樹林帯の中で出会った単独の若者
が、昨日雪の中から掘り起こしてくれた固定ロープがぶら下がっていた。担いできたロープは出さず、この固定ロー
プを使って下降する。次いで細い個所をトラバース。コルまで次々と岩交じりの難所や、幅が30cmほどしかないリッ
ジ、足元が切れ落ちているトラバースなどの難所が続く。一箇所岩場の基部を巻くところでトラロープがあったが、
あまり当てにしないで軽く保持して通過した。トレースは消えており、しかもふかふか。ピッケルを刺してもスカスカ
で効かないが、バランス保持に使っていく。この難所は通常ならロープを出すところと思ったが、松山さんは、厳冬
期の阿弥陀岳南稜や北稜を一緒にやった実力の持ち主。「大丈夫です」の声に、ロープは出さずに、ゆっくりと慎重
に次々とクリアしていった。

 コルから登りに転じ、一歩一歩ゆっくり歩を進め、北岳山荘へのトラバースルートの分岐に到着。行動食を食べて
テルモスのお湯を飲む。見上げると北岳山頂付近は雪煙があがっている。ゆっくり休んでから腰を上げた。これより
上部に行くにしたがって突風が吹くようになった。強風が来たとき、素早く耐風姿勢をとってこれをやり過ごす。風が
弱くなったとき、タッタッタッタと歩を進める。これを繰り返して徐々に高度を上げていった。上部は風で雪が飛ばされ、
岩石混じりの山肌がむき出しである。耐風姿勢は、いくらも刺さらないがピックで地面を刺して上から押さえつけ、
這いつくばるような格好となった。

 ようやく主稜線の吊尾根分岐に到着した。北岳山頂まで標高差約100m、コースタイムでは20分ほどである。しかし
ながら強烈な風が唸りをあげていた。太さ10cmほどの標柱が揺れている。まさに台風並である。しばらく様子を見て
いたが、烈風が吹く間隔も短い。これでは無理していかないほうがよいと判断、戻ることにした。
 北岳山荘分岐まで降りて改めて白根三山の縦走路を見る。やはり未練があるのだろう、主稜線はどこも雪煙が
上がっているのを確認して納得する。しばらく休んでから八本歯の難所に向かった。難所はゆっくり慎重に行き、
八本歯の頭に上がるとホットした。

 後は神経を使わなくても歩ける。ボーコン沢の頭に到着してゆっくり一本。大展望はここが最後である。農鳥岳付近
にまっかな太陽が沈もうとしており、振り返れば鳳凰三山が紅く染まっている。見事な眺めだ。間もなく日没だが、
暗くなっても迷わずに小屋まで帰れる自信があったので、ゆっくり行動食を食べながらこの眺めを愉しんだ。
樹林帯に入るまで少し距離はあるが下りは楽だ。直ぐに樹林帯の入口に到着した。登るとき付けておいた赤ヒモが
風に揺れていた。樹林帯に入って間もなくヘッデンとなったが、要所に赤ヒモをつけておいたので一度もルートを探す
こともなく、池山御池小屋に帰着した。この日の行動時間は11時間40分であった。

 小屋は昨日に引き続き我々ふたりの貸しきりである。翌日は下山のみなのでリラックス。残りのアルコールを全部
飲みほすまで延々としゃべった。小屋の床の上に張ったテントは暖かく、ぐっすり眠れた。
 翌7日7時半、小屋を発った。しばらくは平坦であるが、間もなく急な下りが続く。こんな長い急坂を重荷でよくぞ登っ
たと、我ながら思った。小屋から登山口の「歩き沢橋」までは、標高差約1,000m。登りは重荷にあえいで5時間20分
かかったが、下りは2時間20分であった。
 厳冬期の北岳は、ロングコース、重荷の荷揚げ、難所の通過、寒気、強風など、なかなか厳しい山であった。しかし
ながら想い出に残る山行となった。

<コースとタイム>
 5日:歩き沢橋(1,200m/9:15)〜池山御池小屋(2,200m?/14:35/テント泊)
 6日:池山御池小屋(6:30)〜城峰(7:30)〜ボーコン沢の頭(2,800m/10:00-30)〜八本歯の頭(2,920m?)〜北岳山荘
    分岐(2,970m/13:00)〜主稜線吊尾根分岐(3,090m?/13:50-14:15)〜北岳山荘分岐(14:10-15)〜八本歯の頭
    〜ボーコン沢の頭(16:25-40)〜池山御池小屋(18:10/テント泊)
 7日:池山御池小屋(7:30)〜歩き沢橋(9:55)
    *「奈良田のゲート〜歩き沢橋」間は、(県道=約13km)省略。


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