◆一杯水避難小屋から思わぬ大雪の長沢背稜を歩く 深澤 裕

〔日 程〕2008年3月26日(水)〜27日(金)
〔メンバー〕 単独

        
                      〈一杯水避難小屋)

 やっと平日の3連休を取りました。山の用意をして家を出たのが9時30分。今回は一杯水避難小屋に泊まる
予定です。この小屋は奥多摩の中で最も泊まりたい小屋の一つ。酉谷避難小屋・三頭山避難小屋とならんで
奥多摩の避難小屋の中では憧れていた小屋です。ここから雲取避難小屋へ行く予定。11時40分に青梅着。
12時10分奥多摩駅着。JR奥多摩駅のポストに登山届を出してから、12時40分の日原行きのバスに乗りま
す。東日原着13時10着。ここからヨコスズ尾根を登って一杯水小屋に行きます。快適な登り道。途中、猿の糞
を発見。鹿の食害を避けるためのネットが木に巻いてあります。本仁田山・川乗山・蕎麦粒山を右に見ながら歩
きます。雲取山方面は雪が付いています。16時に小屋着。気温1度。小屋の近くに雪が若干残っています。

 ドアを開けると、中に男性が1人いました。Aさん。聞くと、三田から来たそうな、この小屋に泊まりに来たといい
ます。昭和4年生まれ80歳。凄い。この小屋が好きで平日独りで泊まりにくるそうです。もう10回以上泊まって
いるそうです。この小屋が好きな人と出会えるなんて嬉しいです。ピークハンターではなく奥多摩や秩父の避難
小屋を泊まっては、今でも尾根歩きを楽しんでいるとおっしゃっています。この小屋には薪ストーブがあります。
しかしAさん曰く、煙突に煤が詰まっていて使用できないとのこと。さっき煙突を棒でたたいたが調子が悪いらし
い。トイレも清潔です。「使った紙や生理用品は持ち帰り」と書いてあります。月に一回清掃が行われるらしいで
す。
 薪ストーブは諦めて夕食の準備に取りかかります。水場に水を汲みに行きます。雪道を5分ぐらい行くと水場で
す。しかし水は出ていません。この小屋の水は出ていないことが多いらしいので水の確保は重要です。仕方がな
いので小屋の裏に積もっている雪を融かして水を作ります。明日の道は水場が期待できないのでたっぷりと作り
ます。食事中、夕日が窓から差し込み暖かい気分になります。いい小屋です。「新玉葱のスライスにコーンビーフ
」でホットレモン焼酎を頂きます。体があったまります。「シメジ葱ラーメン」でしめます。

 昨夜は夜中1時頃まで新大久保で呑んでいたので早めにシュラフに入り、ヘッドランプで堤未果さんの「ルポ・
貧困大国アメリカ」を読みます。19時に就寝する前にローソクを一本灯けます。今夜は避難小屋泊まりなので
太いのを一本用意しました。我家にはアロマ入りのしかなかったので臭うかと思ったが感じませんでした。暗闇
の中での一本のローソクの光の威力は凄いものです。小屋の中が明るく揺れています。淡い光の中でぐっすり
寝ました。エアーマットを敷き、シュラフカバーにシュラフを入れ完璧なリラクゼーションです。

 5時に起きます。トイレに行くためドアを開けると一面の銀世界。夕べは屋根を叩く音で雨が降っているかなと
思ったのですが雪になっているとは。気温−6度。10cmぐらい積もっています。軽アイゼン・ロングスパッツ・毛
の下着・ツエルト・スリーピングバッグ・コンロ等、十分な食糧など準備してあったので予定通り雲取山避難小屋
まで行こうと思います。朝食はラーメンです。お湯をたっぷり作りテルモスに入れます。Aさんはヨコスズ尾根を降
りるといい、「お元気で」と挨拶します。あんな風に歳を重ねたいと思いました。

 6時小屋を出発。晴天です。雪が青空に反射して輝いています。新雪を踏むのは心地よいです。今日のコース
は東京と埼玉の県境尾根(長沢背稜)です。小屋の周りの雪は10cmぐらいで快適なトレックです。鹿やウサギ
の足跡が新雪の上に付いています。動物の影が濃い。その上を歩ける幸。9時45分酉谷山(1718m)の分岐
に到着。ここの小屋は昨年、基礎のコンクリート部分が土砂で流され、使用不能となっていました。酉谷沢も崩
壊され通行不能になっていました。ここの小屋からの酉谷沢の眺めがすばらしいだけに残念です。酉谷山は藪
漕ぎが酷く、頂上の展望も無いのでパスし先を急ぎます。長沢背稜は人がほとんど訪れないコース。無雪期で
8時間コース。道に付けられている梯子が崩れている箇所が2カ所あり慎重に歩きます。10年ぐらい前、晩秋に
このコースを歩いたとき、大きな牝の鹿と遭遇したのはこの辺りだと思います。こちらも驚いたのですが向こうも
キョトンとして立ち竦んでいました。しばらくお互いに見つめていたのが懐かしいです。秩父、丹沢や日光に並ん
でこの辺りもニホンシカが繁殖し食害が増えているそうです。

 12時30分、水松山(アララギヤマ、1699m)を越えます。雪が降り始めました。この辺りから雪量が増えてき
ました。20cm〜30cmとなり雪溜まりでは膝までのラッセルを強いられるようになりました。長沢山(1738m)
の手前で膝までのラッセル状態が続き右太腿にけいれんが走りました。初めての経験です。このまま進むか、
戻るか。雲取山は2000mあるので、雪量は当然増えるでしょう。ここから雲取山荘まで無雪期で3時間のアル
バイト。戻るにしても一杯水避難小屋まで6時間のアルバイトです。酉谷山の避難小屋までは3時間ですが小屋
は使用不可能。酉谷沢は通行不能でエスケープルートとしては使えません。雪も激しくなってきました。

 急遽、天祖山(1723m)をエスケープルートに取ることにします。先ほどの水松山近くに天祖山に続く分岐があ
ったので分岐まで戻ります。ここから天祖山の梯子坂のクビレに着きました。しかし、天祖山の北面に雪がべっと
りと張りついている予想外の展開。膝までの急斜面のラッセルを強いられる始末です。登山道は不明。山頂に向
かって雪の少なそうな所をラッセルします。枯枝を拾い、ピッケル代わりに雪に差し込み登攀する事態になってし
まいました。太腿の痛みは無くなりましたが膝が笑ってしまいました。

 予定より1時間かかり15時に山頂の社に到着。積雪20cm。天祖山は昔から修験者のコースになっているそう
で、山頂には立派な社があります。三峰山から富士山に繋がる修験道だったそうです。この辺りは有名な巨樹が
何本もあります。昔から地域の人が木を大事にしてきたのでしょう。信仰の篤い山なのでしょう。少し下に会所が
あります。壁や戸が壊れていたので、中に入って泊まることができると思ったのですが日原まで降りることに決め
ます。17時に八丁橋の登山口着。誰にも出会わない静かな約11時間の雪中トレッキングでした。奥多摩工業石
灰石採掘場の方がランドローバーで通りかかったので東日原まで乗せて頂きます。ありがたいです。17時47分
の奥多摩駅行きのバスに間に合いました。18時20分奥多摩駅着。

 体中ビチョビチョでクタクタ。奥多摩温泉「玉翠荘」にTELし、素泊りで泊めていただきます。ここの湯は奥多摩温
泉「もえぎの湯」から引いているかけ流しの湯。五日市の「つるつる温泉」に似た肌触りです。山女の塩焼きを頼み
「澤ノ井」を呑みながら山行を振り返ります。@春とはいえ奥多摩でも冬山になることもある。Aツエルト・十分な食
糧などビバークをとれる装備はしっかりすべし。今回は装備が十分だったので安心して歩けた。B体調が悪くなっ
たときは無理をしない。
 奥多摩温泉「玉翠荘」はホスピタリティーの溢れる旅館です。朝、多摩川渓谷が見渡せる部屋から日差しが強く
部屋の中に入ります。部屋がポカポカしています。ゆっくり氷川渓谷を楽しみました。10時にチェックアウト。歩い
て5分の「もえぎの湯」に行きます。いつもは混んでいるのですが今朝は駐車1台のみ。ゆったりした湯でした。
今月の露天風呂は「よもぎの湯」でした。上がってから「蕗のとうの胡麻和え」「蕗のとうの酢味噌」で「澤ノ井」を
頂きます。旨し。今回はアクシデントがありましたが、良い山行ができました。感謝!

<ルート>26日(水)JR奥多摩→東日原→一杯水避難小屋(泊)
       27日(木)一杯水避難小屋→酉谷山(1718m)→長沢山(1738m)→天祖山(1723m)→
              東日原→JR奥多摩「玉翠荘」(泊)


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