◆不覚にも低山で難儀−登山靴大丈夫ですか− 木村 修

 福島県の東南にフタツヤサン(二ツ箭山)と呼ぶ標高709mの山がある。小さな山で知名度は低いが、一度
入ってみると、なかなか変化に富んだ面白い山で、渓谷あり、急登あり、岩峰ありで、ツツジ花咲く山間からは
晴れると白波の太平洋を望むことができる。東京からは常磐自動車道のいわき中央ICを降りてすぐの根本集落
から行くことができ、乗り換えのない車で行くと適当な日帰りコースだ。のんびり遊び、全行程3〜4時間のハイ
キング山行は、この時季には楽しい。

 今年の梅雨入りは早く、出掛けた日も雨降りで、レインウエアと汗のうっ陶しい山歩きとなった。途中の険しい
自然の姿からか、修験堂、御神体滝、〆帳場など、崇める昔人の心が名称にも表れる。国道399号に面した市
営駐車場から登山口は近く、一般コースは滑り岩や一枚岩など沢を経て40分ほど行くと、胸突き八丁の急坂が
ある。そこから尾根コースに出る。胎内潜りを経て、男体山、女体山の第1.2の小絶壁の鎖場を楽しむと、二ツ
箭山の山頂に至る。下山は月山を経て月山新道を進むと林間コースとなり、やがて登山口だった根本に戻る。
この他にコースもあり、いわき市の遊び場だ。

 この低山で思わぬアクシデントに出くわした。沢を出て急登にさしかかった際、右足が変に引っ掛かる感じで、
見ると靴底前部が剥がれパクついていた。雨中の登山で皆先を急いでいたので、黙って列の後ろに付いた。
そのうちソールが剥がれ落ち、左右の違いで実に歩きに難い。間もなく30mの鎖場に入ったが、足場の岩が雨
で濡れてよく滑り、ソールのない右足に力が入らず、3点確保とはいえ、両腕で登る感があった。こうして男体山、
女体山の岩峰の鎖場も同様に登ることができた。痛みかけた左靴底に気付きながら、どうにか山頂に立つ。
ここで初めて紐を借りることができ補修、下山に入った。
 しかし間もなく左靴のソールも全部剥がれ、ソールのない下山となったが、雨が止み、革敷底部が残っていた
ため、足もひどくぬれずに帰ることができた。実にお粗末な出来事で、無知だったと反省している。これがもし奥
深い日本アルプスに入山していたらと思うとゾッとする。この靴は5年前、メキシコ山行の際、丈夫で長持ちする
ものとの思いで堅実なドイツ製を選び、普段は使用もせず大事にしていたもの。

 15年程前、プラスチック製の登山靴が登山中に突然破損する事例が数多く出て、重大な危険を招きかねない
と問題になったことがある。特に温かく軽いなどの特色から冬山登山に使う人が多かった。購入後3〜4年のも
のが登山中に割れ目ができて破損が始まると、みるみる亀裂が進行してバラバラに壊れるもので、短時間で破
損した例が多い。原因はつかみにくいと言われたが、プラスチック自体の性質として、徐々に水分と紫外線で劣
化して分解するようだという。私自身、幸い歩行中ではなかったが経験している。
 
 これ程までの重大な突然の破壊ではないが、ソールの剥離は登山中のルートによっては大きな事故につなが
りかねないと思う。調べてみると近頃、登山靴の経年劣化が原因で山行中に突然起こる多くのケースに靴底剥
離があるという。これは靴本体と靴底のソールの間のクッション材として使われるポリウレタン素材の劣化が原
因になっているとか。限界を迎えた靴は剥離というよりも分解して、あっという間に靴底が剥がれてしまう。
ポリウレタンの耐用年数は、使用するしないに関わらず、その劣化は約5年といわれていて、頻度によってさらに
短くなるという。ある業者は、3〜4年程度で買い換えることが目安と言うが、経年によっては、事前買い換え、
運動靴携帯など、体験を生かして注意したいと思っている。

                 


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