◆吾妻連峰 「前川・大滝沢」
    〜ナメが延々、夏休み特選の沢〜 杉坂千賀子

            
                        延々と続くナメ

 昨年少々沢の勉強をさせてもらっていた渓友塾では、日ごろは大変厳しい沢の指導が続く。が、2年生になると
毎年の夏の一日(ひとひ)まるでご褒美のように、この大滝沢の計画が設定される。私は残念ながら中退してしま
ったのでご褒美をもらう資格はなかったのだが、今回、前に所属していた別の会にこの計画があるのを知り、一に
も二にも参加をお願いした。
 8月2日夜、大宮に集合すると駅前はお祭りでタクシー乗り場も移動しているほど。なんとかかいくぐり某宅に集
合。20時ごろ出発、総勢5名で一路東北を目指す。夜の東北道を快適に走り入渓地点近くの滑川温泉に0時近く
に到着する。滑川温泉は一軒だけ福島屋という宿があり、その手前に大滝沢にかかる橋があり、その付近に車が
数台止めることができる。今回は残念ながら宿がとれなかったので駐車場にテントを張り、寝酒をたしなんでから
仮眠。

 人気の沢らしく朝方から次々と車が到着する。そして今回は渓友塾も入渓するという情報で、なんとなくどきどき
して様子をみていると、見覚えのある車が到着し、「塾長」宗像兵一さん率いる一行がおみえだ。あわてて飛び出
し「塾長のために駐車スペースとっておきました!」と我ながら感心するようなひと言(苦笑)を発して、あわててテ
ントを撤収。このひと言で相好を崩した塾長(厳しいので有名)としばし歓談。朝食をとってからいよいよ入渓である。
もはやすでに橋のあたりの風景から素晴らしいナメで、驚く。入渓のアプローチにはたびたび苦しい長い林道歩き
などがあるものだが、ここはその横の橋の脇をトトトッと下りればOK。そして好天の中、実に楽しい沢登りが始まっ
た。なにしろすべてが美しく広々としたナメなのである。奥秩父の釜の沢のナメなどの比ではない。早々に滝が出
てきて、先行パーティーがロープをフィックスしている。大人数なので先にいかせてもらう。フリーでも行けそうだが
大きな釜もあるし、出だしの滝なのでロープをつけて慎重に登る。

 それからは、しばらく難しい滝もないナメ沢を延々と歓声をあげながら歩く。ウオータースライダーもやりたい放題
だが、これをやって結構怪我をする人がいるので私は遠慮する。小さなお風呂みたいな釜?もあり、わざと入った
りして遊んだり、釜の中を泳ぐ、へつる、思い思いに歩く。私は昨年購入したファイントラックのネオプレーンのジャ
ケットで泳ぎの準備も万全なのだが、初めにやりすぎて疲れるのも困るのでほどほどにする。滝はそのつど歓声
を上げるほど美しい。

 ついに大滝120mが出てくる。このスケールは私もはじめてで、本当にびっくりした。なにから何までうれしい驚
きだ。この滝は左側に小さなリッジがあり、そこを直上。木がほどほどにあり、つかみながら行けばそれほど苦労
はない。ただ上部でルンゼを横切るところがあり、それは草付きでもあるのでトラバースの数メートルのためにロー
プを出した。一番私がいやらしいと思ったのは、中ごろのすだれ状4mほどの滝。直登にはちょっと細かいホールド
で難しそうで、右側を潅木を伝って滝の上に出ようとした時に、スタンスがつるつるの土で腕力のウンテイ、しかも
枝の知恵の輪付き、みたいのがあり、力尽きてこけたらどうしよう、というのがあった。ここはそのルートでロープを
出したら、振られて滝の中に入ってしまうし、どうなのだろうか、と思った。渓友塾では滝を登っているようだ。ショル
ダーでも何でも駆使して滝を登ったほうがいいのかもしれない。が、細かさはどうかな・・。
  
 歩いていくと昔の吊橋というのがはるか上に朽ちてでてきて、それが一つの目安で楽しい沢の終わりを予感させ
る。その先ずっとつめることができるのだが、私たちは右岸から入る桶木沢というのに逃げ、登山道にほどなく出た。
この桶木沢はコケがふかふかでミニ日本庭園のようだ。また、この登山道は沢を横切っており、赤テープなどつい
ていたが、入ってすぐでてくるので見落とし注意である。

 下山もラクチンだ。その登山道を滑川温泉に向かって、ひたすら余韻を楽しみながら1時間ちょっと下りればいい
だけだ。途中に大滝の展望台があり休憩にはちょうどよい。滑川温泉に下りて白濁した良いお風呂に入りご満悦
である。この福島屋は素泊まりも数千円でやっている。冬もやっている。奥羽線の峠駅から送迎もしてくれるそうだ。
一度泊まってみたいもの。この奥には姥湯温泉というのもあり、梯子してみたいものだ。
 今回は好天に恵まれ、行ってみたかった沢に行けて非常に満足だった。エスケープルートはいくつかの支沢に
登山道が横切っており、逃げることができる。岩質は花崗岩だろうか、明るいが沢自体は増水したら非常に危険
だろう。天気の見極めは必須。また水はまずい。温泉成分が入っているかららしい。桶木沢の流れがきれいだっ
たので汲んで持って帰ったら、なんだかすっぱい感じがして捨ててしまった。悪くなったのではなくきっと温泉のせ
いだろう。
 素朴な温泉と美しいナメ。容易なアプローチ。すべてよし、の素晴らしい沢でした。


個人山行報告目次へ     HOMEへ