◆ 前穂・X・Yのコル   杉本 忠

 〔日 程〕2008.8.22(金) 晴 18℃ 無風
  〔メンバー〕杉本忠ほか男子2、女子2     
               
         
 やっと積年の想いでいた奥又白からX・Yのコルへ抜けるチャンスが再び訪れた。歌の文句じゃないけれど、
「あれは3年前」の9月、ベテランの先輩と2人で奥又白からトライして、松高ルンゼの中畠新道への取付きが
分からなかったり、奥又白の池からV、W峰直下をトラバースしてX峰の支稜へ入るポイントが崖崩れとなっ
てしまっていた。ロープもなしで通過できず、入口を探して時間をかなり食い、夕方の4時になってしまい、おま
けに雨まで降ってきて冷たくなった。しかたなしに、また急な中畠新道を下り、ゴーロで岩に脛をぶつけ血だら
けの泥んこになって、真っ暗な中を夜の8時半に氷雨の中、徳沢園へホウホウの体で転がり込んだ。そんなこ
とが昨日の出来事のようにはっきりと思い出される。

 今回は、ルートをよくよく調べた。新村橋を渡り、ゴーロをしばらく登ってからパノラマコースよりの分岐点で
松高ルンゼを左に見て、中畠新道の支稜に取付くとすぐの垂壁に大木が倒れており通過に時間がかかった。
荒れてはいたが、道はしっかりとしており、いまなお多くのクライマー達が通っていることを窺わせた。かなりの
急登が岩壁を交えて続いたが、2時間もすると高度も上がり、梓川もはるか下に見え、向かいの長塀山が同じ
位の高さにせりあがってきた。眼を前に移すと前穂高の“氷壁のふるさと”が目前に見えてくる。3時間で奥又
白の池に着く。高度2500mもあるところに、25mプール位の藍色の水をたたえ澄んだ水の池があるのが不思
議に思えてくる。周囲は前穂東壁に行くクライマーが長年にわたって作ったと思われる、きれいなテントサイトが
いくつも並んでいた。東面は開けており、ここでテントを張ってゆっくりしたいと、ほんとうにそう思えるところであ
った。日の出の時は晴れてさえいれば、かなりのドラマを見ることができそうだ。

 池から少しもどって奥又白谷のトラヴァース路にはいる。ほんの踏跡を夏草が隠しその下が浮石のゴーロで
あり、どこを踏んでもザクザクしたところで蟻地獄の様で体力を消耗する。谷の上部はまだ豊富な雪の量をもっ
た雪渓があり、その上はヴァーンと気の遠くなりそうな前穂高東壁がU〜W峰と並んでいる。とくにW峰のフェ
ースの大きさとその迫力には驚かされ、ゾクゾクとして足がふるえて、何回も場違いのところに迷いこんだ自分
を後悔してしまうような錯覚に陥った。X・Yのコルへのルートは、今回は崩れて崖になっていたところが、緩や
かになっていて通過でき、ガレたルンゼの向こうの支稜に早く取り付けた。

 支稜のルートは結構急な登りではあるが、踏跡はしっかりとしていた。今まで見ていた、ヤボクサイY峰が間
近で見ると、俄然キリリッとして立派に見えてくる。X峰の支稜の末端へくる。ここは奥又白本谷の源頭部で、
かなりガレておりヘツリの様な状態で渡る。落ちたらアウトなので一応フィックスをはる。そこから、ちょっとでX・
Yのコルへとび出す。感無量の思いがした。X・Yのコルは小広いところで五峰の岩稜へのルートが延びてい
る。涸沢側のカールが鳥瞰図のように見え、この位置からの北穂、奥穂から吊尾根と見ていて全くアキがこな
い。ものすごい摺鉢をその淵から覗き込んだようなカールが3つあり、ボーッとして眺めていた。

 もう4時になったので涸沢側へガレをジグザグに下る。雪渓もあるが岩塊斜面をヘツッて1時間で涸沢ヒュッテ
の裏側に出て長い1日が終わった。思った通りの素晴らしいコースであった。一度コースが分かってしまえば
スムースに進めるところと思われたが、未経験者だけで来ると迷うコースとも思われた。本チャンルートを垣間見
たおもいで自分も北尾根のクライマーの仲間入りをしたい誘惑にかられたが、高名なクライマーがここで何人も
命を落としたことを思うと錯綜たる思いがした。


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