◆肝を冷やした夏休み特選の沢
      〜吾妻連峰前川・大滝沢〜  赤澤東洋

◎山行日 2008年9月)〜10日
◎メンバー 赤澤、大塚

 
   高さ120m、幅50mの「大滝」           ナメ滝と深い釜。こような滝が延々と続く

(写真はこの他、このHPの「掲示板・写真館」にも掲載しています。トップページからご覧下さい)

 ジャーナル前号の杉坂千賀子さんの山行報告「ナメが延々・・・夏休み特選の沢」に惹かれた。曰く、<素朴
な温泉と美しいナメ。容易なアプローチ。すべてよし、の素晴らしい沢でした>。フンフン。なんだか面白そう。
これは行ってみる価値がありそうだ。自転車を乗り始め、このところ渓流シューズにご無沙汰していたが、この
報告を読み寝た子が目覚めてしまい、早速同好の士を募ってみたのだったが反応鈍く、手をあげてくれたのは
大塚代表のみ。これはなんだかイヤな予感。

 9月9日(火)夕方滑川温泉の一軒宿「福島屋」に投宿。9年前西吾妻山から下山して泊まった事があり、懐
かしの素朴な温泉。あの時は女房同伴だったが・・・・。今日は・・・。ともあれ2つの露天風呂と大きな内風呂
をハシゴし鋭気を養う。温泉はいいなあ。ビールもうまいぞ。

 10日(水)5時起床。毛布の上に布団をかけても寒い位の朝。ススキも穂を出しお山はもうすっかり秋の気配
だ。6時半入渓。入渓点は宿の手前の橋を渡った所で、宿から1分。このアプローチの短さも杉坂さん推奨ポイ
ントの一つで、橋の下からもう赤褐色のナメが始まっている。川幅は広く、明るいナメは歩きやすくルンルン気
分だが、まだ水は冷たく濡れるのが躊躇われる。すぐに2段15mの滝にぶつかり1段目は左から、2段目は右
をへつって登る。次々と現れるナメと滝。

 代表は言う。<この川床チャボチャボ歩いていると、陽光の影がナメに縞模様映して、子供の頃の水遊び思
い出しますなあ>。しかし滝壺は深くえぐれ碧色の釜となり、いかにも神秘的で綺麗だが、これが問題なのだ。
何を隠そう。代表も私もカナヅチで、絶対に背の立たない所へは行けないのである。真夏の暑い日は皆さん飛
び込みやウオータースライダー等で遊んだりするというのだが・・・・・・・。こちらはなんとか かんとか手がかり
探して落ちないように壁をへつり、へっぴり腰で乗っ越す。この緊張感が又たまらないということもいえるわけだ
が。
 入渓1時間、120mの大滝にぶつかる。日本100名滝にも選ばれている吾妻連峰随一の大滝。さすがにこ
れは登れないので左壁のルンゼを高巻く。ここにはしっかりした踏み跡が付いていた。大滝の上からも次から
次へとナメと滝が現れるが、どうにかこうにか手がかり探して通過する。左岸から合流するホラ貝沢出合到着
が9時。ここまでは足も揃ってロープを出すこともなく極めて順調だったと言えるだろう。日も差し始め暖かくなっ
てきたので、十分に背の立つ事を確認して小さな淵で平泳ぎの真似事をして遊んでみたが、いやはやその冷
たい事、心臓麻痺を起こしそうになりすぐやめる。

 その先も5mから10mの連瀑が続いたが、ある時は正面突破、ある時は高巻きしと何とか詰め上がってきた
が、遂に二進も三進もいかない滝にぶつかり立ち往生してしまった。左右どちらも垂壁で手掛かりなし。釜は大
きくしかも相当深そうだ。高巻きしようにも切り立つ崖で逃げ場なし。ネットで調べた所では、ここは泳ぐしかない
という。一応それは頭に入れてはいたのだが、何とかなるだろうと多寡くくっていたのが失敗だった。代表は
<壁沿いに淵を伝っていくしかないのでは?>と言うが、ただ言うだけで、率先して自分で行く気なんてさらさら
ないのだ。<やめた。やめた>と引き返す事も出来ず、前に行くしかないところだが、吸い込まれそうな深い釜、
こちらは恐怖でおののくばかり、とても踏み出す勇気がない。イヤな予感が現実となってしまったようだ。

 <溺れる者は藁をもつかむ>というが、溺れたくないので必死で突破口を探す。よくよく見ると右壁の草付き
に水の流れる岩溝があり何とか登れそうなので、こちらから高巻きを試みる事にした。取り付いてみると垂壁で、
濡れた岩と30cm程に伸びた草を押さえ込むように掴みながら、じりじりと上がっていくしかない。これはかなり
やばい状況だ。今にも剥がれそうな薄い岩はチョロチョロ流れる水で、ツルツル滑り、ブルブルと足が震えてくる。
無茶苦茶怖い。数メートル程登って一本の錆び付いたハーケンを見つけた時は正直ホッとしたものだ。

 高巻きはやはりこちらからが正解なのだろう。ハーケンは相当に古いようだが、一応しっかり岩に食いついて
いる事を確認し、ロープをクリック、取りあえず安堵のため息をもらす。しかしその後はまったく人の登った気配
がなくなり、左にトラバースしなければならない筈なのに、踏み跡らしきものもなく、支えとしたい灌木もないの
で、ただ上へ上へと行くしかなかった。30m程直登し、何とか灌木帯に達し自己ビレー取れた時は、これで死
なずに済んだかとヤレヤレだった。代表は<股の下に深い釜が見えて、足が震えてオシッコチビってしまった
よ>と言いながら登ってきた。
 その後も大変で、ルートは完全に踏み外しているので、石楠花などの密藪の中を下降点を探してウロウロ彷
徨い、なんとかトラバースし、草付き帯の上へ出た。川床までは40m位ありそうだ。最初は50mm位の檜葉に、
次いで30mm程度の深山楢にロープをかけ懸垂下降2度繰り返し漸く沢に戻ったらもう12時になっていた。
この滝一つ越すだけで、たっぷり2時間もかかってしまった事になる。泳げれば10分もかからない筈なのだ。
若いうちに水の怖さを克服しておくべきだったとつくづく思ったものだ。

 
万事休す。写真では見えないが手前の岩の裏に深い      懸垂2回で落ち口の上に降りた
釜がある。左岸の垂壁に逃げたが肝を冷やした


 その後も連瀑が続き、右岸を高巻く場面もあったが、そちらはしっかりと踏み跡がついており何ら問題なくやり
過ごし、朽ち果てた吊り橋を見上げながら桶木沢出合に13:50到着。苔の生えた緑の滝を2つ登ると明月湖へ
の登山道に出た。あとは滑川温泉まで駆け下り15:30駐車場に無事下山出来たのだった。
 肝を冷やしたあの滝さえ何とかなれば、この沢は本当にいい沢だと思う。杉坂さん特選の沢間違いありません。
{反省}カナヅチだけで沢に入らない事。


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