◆2009登り初め「大川入山」 矢澤昭文

 ◎日程=2009年1月2日 日帰り   ◎メンバー=矢澤昭文、金田安代

        

 新しい年を迎えた。老人ホームに勤務するようになってから、元日は施設長が入所者に年頭のあいさつを
するのにお伴するために出勤となった。どうせ出勤するのならと、お屠蘇気分もそこそこに職場近くの山に登
って、新しい年一番のお日様を拝んでから出勤するようになっていた。その山は標高が1,000m近くあるのだ
が職場のある所が既に標高500mあるので、そうたいしたアルバイトを必要としないのである。それに山頂は
岩山で展望が大変素晴らしく、大気が澄んでいれば年に数度は富士山まで見えるのである。今年の元日は
天気が良く期待されたのだが、こんな年に限って寝過してしまった。

 夜、金田さんに新年のあいさつを兼ねて連絡すると翌2日は休日との返事。よしっ登り初めだ!さてどこへ
行こうか?昨年末に八ヶ岳連峰の権現岳に2度向かったが2度とも敗退した。雪の権現岳にはこれまで2度
登っていたが青年小屋方面からは登ったことがなく、ギボシの雪壁を越えていくこのルートから登ってみたい
と前々から考えていたので再度1月中旬に挑戦つもりだ。そのためにも雪のある山に入りたかった。そこで選
んだのが大川入山である。中央アルプスの山域からいったん途切れた南側に1,900m余の高さで聳え、条件
さえ整えば山頂からは北アルプスの峰々まで見渡せる。2月から3月にかけては積雪も1mを超え、特に降雪
直後はラッセルに苦しめられることになる。自宅から車で入山口まで1時間半。日帰りが可能な範囲である。

 2日は金田さんと待ち合わせ朝4時に出発。ヘッドライトを点灯して国道を北上する。年末に雪が降り長野県
に近付くにつれ乾いていない道路になってきた。見ただけでは濡れているだけなのか凍っているのか判然とし
ない。自然と運転が慎重になる。
 入山口辺りの積雪は数cm。意外と少なかった。今冬はこれまで全国的に雪が少ないようだ。暖冬といわれ
て久しいが、毎冬山に登っているとその傾向はさらに進んでいることを実感する。向い側のスキー場はこの時
期でもここ何年かは人工雪である。しかし高度を上げていけば途中からはラッセルもあるだろうと思い輪かん
もザックに留めた。登り始めは緩い傾斜だが、その後は岳というピークまでは急登である。何年か前の1月中
旬にはこの斜面で深いラッセルに悩まされた。途中に一息つけるフラットな尾根があり、そこまで登った時に
左側の山の稜線から朝陽が届いた。今年2度目の日の出である。山の中で対峙する朝一番の陽は何度目で
も厳かな気持ちになる。
  天気予報の画面では冬型の気圧配置だったが今のところ空は晴れている。横岳から山頂手前の急登まで
は緩いアップダウンが延々と続いている。雪は一向に深くならない。せいぜい登山靴が隠れる程度である。
樹林が切れ陽の当たる道では雪がない所もある。これならトレイル・ランができるぞなどと言いながら進んだ。

 山頂手前でいったんぐんと下る。ここの立ち木に割と新しい木のプレートがくくりつけてあった。丁寧な手書き
で「舞鶴のコル」としてあった。何度かこの山に来ているが初めて目にしたものだった。このコルから山頂に伸
びる稜線と今下ってきた稜線を、鶴が広げた両翼に譬えたのだろうかなどと話しながら山頂への登りに足を踏
み出した。樹林は切れ辺りは笹原の山腹になった。風が強い。ここでヤッケを着込んだ。晴れていた空にも雲
が広がっていた。雪は吹き溜まりにある程度で、夏時間とほぼ同じくらいで1,908mの山頂に着いた。少しは
ラッセルをしてみたかったのでやや物足りない気分だった。また展望を期待していたのだが、冬型気圧配置が
強まっているのか南アルプスの南側半分ほどが見えるだけで、中央アルプスから北側は雲の中だった。山頂
でコーヒーをと楽しみにしていたが、風が強く長居は無用とばかりにそそくさと下山にかかった。途中の風の弱
い所で腰を下ろし湯を沸かし、カップのぜんざいでお正月気分を味わった。

 昨年も山に入り登ったり走ったりした。新たな年がまた始まった。残された時間が年々少なくなっていくのは
誰しも同じである。ただ、先のことを思わず後のことを思わず、今ここで山の中にいる自分が在ることに喜びを
感じる。山は本当に美しい。さまざまな表情を見せてくれるが自然は本当に美しいと感ずる。その中に在る自分
を実感することはこの上ない喜ばしいことである。今年もお山に向かいよろしくお願いいたします。


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