◆ 幸手さくらマラソンを走る 菅野 裕治
     〜もはや順位などどうでも良い〜

 

 埼玉県幸手市のさくらの名所において、4月5日に「幸手さくらマラソン大会」が開催されました。
権現堂堤のさくらの下を駆け抜ける壮大なイベントは、華やかさのあるマラソン大会です。今回の10マイル
コース(約16km)は、〈風光明媚なマラソンコース100選〉にノミネートされています。
今年で18回目を迎え、県内外から約4,600人の、足に自慢の老若男女の兵(つわもの)が集結しました。
日光街道に近い幸手市北部の権現堂堤は、四季折々の花が楽しめるところとしても有名ですが、とりわけ
春は、堤に約1000本の桜が左右に垂れ下がっており、訪れる人々の目を、昼夜を問わず楽しませてくれる
場所でもあります。    
 コースの見どころ・走りどころは、スタートライン付近の桜をはじめ、権現堂堤さくらの走り抜けと、黄色い
絨毯を敷き詰めたような菜の花が織りなす色鮮やかな光景と、青空のコラボレーション。それに、これらの演
出をしてくれるボランティアの人々の心であります。今年のさくらマラソンは、このすべてがコラボされた環境の
中での最高のマラソンでありました。

 平成4年の初回から参加し大会を盛り上げている、元オリンピック選手の浅井えり子さんは、今年も市民ラン
ナーと一緒に(4,600人の一番後方)スタートラインに立ち、走者の応援や後方支援に徹するようです。私の
記憶では彼女は93年ゴールドコースト大会と名古屋国際女子マラソンの優勝者であり、本大会ではその美し
い走り方に興味が湧くところでもあります。

 9時10分、スタートライン周辺は、桜・さくら・サクラであり、まさしく「さくら公園」そのものです。両脇の沿道
には4,600人が犇(ひしめ)いており、今か今かとのスタート音を待ち望むランナーで賑わっています。 
小生にとっての10マイルの走行は、ランニングマシーンでなら何度も経験をしているが、ロードでの参加は初
めてであり、まさに“未知との遭遇”です。完走する自信はあるものの、自分がどのようなスピード配分で走る
のか、不安をぬぐいきれないまま発砲音が鳴り響き、スタートしました。  
 スタートから10分間はスローペースで、前を抜こうにも抜けない程のランナー達で溢れ、ただ流れに乗って
走るのみです。抜くに抜けない高揚する気持ちを和ましてくれたのが、桜の華のもつ独特の姿です。ゆっくり
走りなさいという気持ちをサクラに諭され、沿道の桜にも目が行き届き、心までも楽しませてくれるようです。

 スタートから約1km、桜街道を走り続けると、あの権現堂堤桜の入り口の看板が見えてきます。遠目に見
ても明らかにサクラは満開です。権現堂堤上は一般客通行止めになっており、ランナーのための時間限定の
“サクラロード”です。堤の上は約1kmにわたって、さくらが両脇から垂れ下がるような形で、ランナーの目と
心を楽しませてくれます。見上げれば、さくらの木漏れ日を通して、真っ青な空が所々に見えてきて、そのコ
ントラストな配色は絶妙に素晴らしくもあり、感動を覚えさせてくれます。また、そのようなことを感じながら走
っていることを体感出来ている今この瞬間が素晴らしい。正にマラソンランナーにだけ与えられた特権です。
桜は本来、不特定多数の日本人の心を華やかにさせる樹なのですが、この瞬間においては、同じ価値観を
持ち、同じ行動を共にしている人々にだけ与えられた特権であります。

 感動と感謝を味わいながら走り抜け、行幸湖畔に出ると、左手に桜、右手に川面があり、川風が優しく汗を
拭ってくれます。第1給水場(4km地点)が目に入ってきて、水とオレンジを配っています。水を補給しようとし
たところ、走りながらの給水はなかなか難しく、水を吐き出してしまい、オレンジを口にくわえ、喉の渇きを癒し
ながら走行しました。橋を渡り引き返すような形で対岸を走ります。噴水が見え、ランナーを祝福するかのよう
に勢い良く吹き上げる勇姿は、青空と桜に妙にマッチすると思いながら走行。さらに走り続けること2k(6km
周辺)、権現堂堤下には黄色い絨毯が見えてきます。菜の花畑の黄色い絨毯とサクラ、そして青空とのコラ
ボレーションが出迎えてくれました。

 ベストカラーマッチと感じながら堤下を走り続けると、一般客からの暖かい声援が飛び交い、選手として自覚
し始めたころ、中間地点(8km地点)に来ました。しばらく走ると古民家の集落に出ます。沿道の応援も農家の
おじいさん・おばあさん・お孫さんの声に変わります。通過点の給水場以外の庭先には、おにぎりや・果物が並
べられており、ランナーへ無料で配っているらしい。ありがたいことだと感じつつ走って行くと、川の両岸土手沿
いには菜の花が一面に咲き誇っています。恐らく農家の人達のボランティアで、今日、この場所を走るランナー
のために植えたのであろう菜の花が、疲れた体を癒してくれます(10km〜12km付近)。

 ありがたさを感じながら右岸から左岸沿いに走って行くと、第3ポイントの12キロ地点で突然、バーン・バーン・
バーンと連続した発砲音が鳴り響きました。恐らく先頭ランナーがゴールしたのでしょう。しかし、ゴールまでは
後4km、まだまだ先である。走り続けるうちに、後3km、2kmとゴールは明らかに近づいてきています。
1.5km付近だろうか、スタートライン付近のサクラが見えてきた時、あのオリンピック選手の浅井えり子さんが
後押しするかのように「あと1.5キロです”頑張りましょう!」と声をかけていただき、更なる勇気と力をもらって
ゴールを目指しました。彼女の走り方は実に軽やかであり、足腰の動きは美しくもあり、速さと力強さもあり
、目が点になったことは言うまでもありません。グラウンドに入りゴールはもう目の前、いよいよゴールです。
ゴールの瞬間の達成感に浸っていると、ゴールはまだ先のようです。ゼッケンについているバーコードをスキャ
ンして初めてゴールらしい。スキャンして順位や完走証明書を発行するシステムのようです。

 しかし、小生にはもはや順位などもうどうでも良い。〈ただ完走したという実感だけで、大満足している自分に
気が付いた〉。何故か不思議である。今までの人生は順位の人生であり、人よりも早く優位に立ちたい想いが
強かったが、「幸手・権現堂さくら10マイルマラソン」は、これまで味わったことのない貴重な体験を得させてく
れました。
 最後に、権現堂堤のサクラは、ボランテアの心の美しさ、そして華やかさと、舞い散る潔さを兼ね備えた樹で
あると思いました。


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