日程: 2012年9月14日夜発~16日
メンバー: 藤野(L)、國井、石川
報告: 石川

 

 
明神岳の頂上にて。バックは前穂高岳   到着した前穂より望む明神の稜線

 

 上高地へ行く度に、河童橋から雄大で鋭い明神岳を望んでいたが、登山地図を見る限り、登れる山と思っていなかった。
 藤野さんから「明神岳Ⅴ峰南西尾根を登って、主稜から前穂に縦走」と聞いたときは驚いたが、登山地図に記載されていないコースを登れる期待が込み上げてきた。
 初日は金曜の夜発で東京を出発、長野道のSAで仮眠。翌朝、沢渡から上高地行きの登山バスへ乗り込むと、大量の人が座っている。デイバックの家族連れや日帰り装備の人が多く、休日の観光地へ行く雰囲気満点だ。河童橋までは人も多く観光地って感じが強いが、河童橋を渡り木道を進むにつれて人が減っていき、いつもの登山と同じ雰囲気になってきた。
 明神岳Ⅴ峰の南西尾根に取り付くには、岳沢小屋へ向かう登山道の、 “NO.7”の看板からである。看板の前は休憩が出来るほどの広さがあり、そこから尾根方向を見ると、進入禁止のようにトラロープが張られている。しかし、明瞭な踏み跡があるのであまり気にせず歩くことができる。がそれは最初だけだった。すぐに急な登りになり、足元は濡れた粘土質の土か藪。手で掴めるのは藪だけ。つるつるの地面と藪と戦い、口ではしんどいとか、急だなぁなんて言いながら、歩きにくい踏み跡を重荷に耐えながらひたすら登っていく。
 かれこれ2時間半が過ぎたあたりで、細く痩せた岩尾根が出現。固定ロープが張ってあり、慎重にロープも掴みながら攀じ登っていく。せまいところで幅20~30cm、広いところで50~60cmほどだろうか、意外と長く急な箇所もあり重荷が堪える。やっとこれを抜け、一本立てた。下りは更に難所だろう。
 標高が2,400mを超えた頃から周囲の木々は少なくなり、ハイマツと藪が多くなってくる。このハイマツとはその後、長い長い付き合いとなる。樹林帯を抜けると視界は開け、風が抜けるので今までとは別世界のような涼しさを感じる。だが、これまでとは異なる妨害を受けることとなった。ルート上はハイマツがびっしりと生えている。藤野さんの言葉を借りると「藪漕ぎならぬハイマツ漕ぎだ!!」ルートまでいっぱいに広がったハイマツは太く、強靭な反発力で我々を押し返してくる。ハイマツを押し分けながら登っていくと、岩場が目立つようになり、程なくして明神岳Ⅴ峰の台地に到着した。
 初日の幕営予定地だが、軽いカルチャーショックを受けた。登山を始めて1年半になるが、奥多摩や涸沢など山小屋へ料金を支払って使うテン場しか使ったことがなかった。このⅤ峰台地は全く異なる。小さな石を集めて平らにしたような場所ばかりで、広さも2人用のテント+α位の大きさしかない。これが数箇所点在しているだけである。さてどこにするかと思ったとき、藤野さんより「風の当たらないところ」と指示がでて、場所を決定した。
 いざテントを設置すると平場が少し狭い。付近のガレ場から岩を集めて並べて寝床を平らにしていく。歴代の登山者が繰り返していくことで、このようなテン場ができたのだと感心した。
 食事を終え太陽が沈むと、満点の星空が現れた。涸沢などでは隣のテントの明かりや、山小屋の明かりでここまできれいに見ることはできないだろう。多くの登山者が上高地から入山したにも関わらず、ここは我々以外誰もいないため、これまで見たことのない、美しい満天の星空を好きなだけ楽しむことができた。
 翌朝、陽が昇らないうちに食事を摂り、明るくなると直ぐに出発できるように準備をする。二日目は「明神岳~前穂高岳~上高地」のロングコースである。それにゲレンデ以外では初めてロープを使用することになるので、緊張がなかなか治まらない。夜明けを待って明神岳を目指して出発。まずはⅤ峰の途中まであるはっきりとした踏み跡をたどり、途中からⅤ峰を巻こうとしたが、ルートがよくわからず、結局Ⅴ峰のピーク(2,726m)にたった。次いでⅣ峰を目指して稜線沿いに進んでいく。すると、途中のⅤ峰麓、Ⅳ峰付近にテント1張分の整地されたテン場があった。Ⅴ峰台地と同じように登山者が周囲の石などを集めて造ったのだろう。驚くほど平らになっている。寝心地がよさそうなので風がない日を選んで一度泊まってみたいと思った。やがてⅣ峰のピーク(2,775m)に到着した。そのとき、「ヤッホー!!」と聞こえた。見下ろすと、東稜のラクダのコブあたりに3人組がいた。「おーい!!」こちらからの声に彼らも答えてくれ、ちょっとうれしくなる瞬間だった。
 Ⅳ峰から先は再びハイマツ漕ぎだ。はっきりしないルートなのでハイマツに体力と時間を奪われていく。急な岩ルートに不安を抱いている様子を藤野さんが察し「行ってみればなんとかなるから」と声をかけられ、不安は小さくなった。今までのルートと同じく足元が崩れるガレガレの岩と、追い返そうとするハイマツの連続、稀にクライミングする部分があったが、Ⅲ峰を巻いて意外とすんなりと、Ⅱ峰(2,910m)に到着した。
 前穂まで行くには二箇所の懸垂下降が必要であるが、その一箇所目がⅡ峰からの下降である。これが私の本チャン初の懸垂下降で緊張する。残置スリングはしっかりしていたが、藤野さんより、支点の確認や残置スリングを利用する場合の注意などを受ける。ロープをほどいていると、いつも練習でやっている手順なので、いつの間にか緊張は無くなった。これより50mの下降だが、我々は50mロープ一本で、2回に分けて下降するのだ。
 最初は藤野さんが降りた。「OK!」の声を聞いて、ロープを下降器に通し、間違いがないことを確認、國井さんも確認して、セルフビレイを外した。練習通りうまく降りられた。ラストは國井さん。りすんなりと降りてきた。新たな支点のスリングはかなり古い、藤野さんがザックから残置用の7mmの長いロープスリングを取り出し、大きな岩に二重に巻きダブルフイッシャーマンで結んだ。「丁度10mだ。命に比べると安いもの」と藤野さん。これにロープを通して2回目の懸垂下降。つづら岩でやっていた懸垂下降と同じなのだと実感した。
 ここまで来ると明神岳はすぐそこで、ガレガレの岩場を登っていく。明神岳の頂上(2,931m)へ到着すると、東稜から登っていた3人組が談笑中であった。我々とお互いの健闘を称えあった。東稜からの3人組は明るく感じのよい人たちで、普段は一般登山コースを歩くハイキングクラブだが、個人山行でこの東稜を登攀したとのこと。ここでお互いに前穂高岳をバックに写真撮影し、登ってきたコースの情報交換をおこなった。彼らが前穂高岳へ向かって出発するのを見送って、我々はしばらく休憩。この先、懸垂下降があり待つことになるので急ぐことはない。ゆっくり休んでから我々も前穂に向かって出発した。
 明神岳から前穂へ向かうコースは、Ⅴ峰~明神岳に比べると、踏み跡は随分しっかりしていた。すぐに懸垂下降の地点に到着した。先行パーティがまだ下降中で、後方でしばらく待機する。やがて我々の番となった。先行パーティは50mロープを2本つないで、一度に50mの懸垂下降をしたが、我々のロープは50m一本、一度では25mしか降りられない。下を観察した藤野さんより、「前半は歩いて降りる」と指示がでて、藤野さんを先頭に易しそうなコースを選んで、次の支点のところまでロープ無しで降りた。この支点の残置スリングは使えそうにも見えたが、藤野さんは持参の新たなスリングとカラビナでバックアップを取った。安心して気分良く懸垂下降をして、奥明神沢のコル(2,880m)に降り立った。これより前穂高岳まで標高差210mの登りである。
 踏み跡をひたすら登って、前穂高岳に到着。多くの登山者がいて写真撮影に苦労したが、それが一般登山道に到着した証拠でもあり、張りつめていた緊張は一気に解放された。ここから一般登山道の重太郎新道で岳沢に下る。当初はこの日のうちに帰宅する予定であったが、下りの途中で「明日も休みだ、小梨平で泊まろう」となって、団体さんの後をゆっくりと、ノンビリと下った。
 到着した岳沢小屋で大休憩。そして上高地へゆっくりゆっくりと下山。いや、もう口を開きたくないほど疲れていただけかな。
 そのまま、小梨平キャンプ場でビールを調達して宴会。翌日、東京へ向けて帰宅し、3日間の登山を終了した。
 今回は初体験だらけの登山で、新鮮な発見の多い勉強になるとてもよい登山であった。
   
<コースタイム> 
9月15日 上高地BT(7:50)-河童橋(8:12)-岳沢登山ルート(8:26)-No.7看板(9:00)-痩せ尾根(10:21)-Ⅴ峰台地(13:00/テント泊)
9月16日 Ⅴ峰台地(5:40)-Ⅴ峰(6:15)-Ⅳ峰(8:00)-Ⅲ峰を巻く(8:40頃)-Ⅱ峰(9:05)-明神岳 (10:25)-前穂高岳(13:20)-紀美子平(15:05)-岳沢小屋(16:10)-河童橋(18:30)
*途中の時間は到着時間。
 
 
岳沢への登山道の7番看板
これよりⅤ峰南西尾根に取り付く
  Ⅴ峰南西尾根は樹林の中の急登
 
Ⅴ峰南西尾根の上部
やっと樹林帯を抜けたが、足元は這松のヤブ
  :Ⅴ峰台地
右端が我々のテント
 
Ⅴ峰台地に張ったテントの前にて   テントを出発、最初はゴツゴツした平坦な岩道?
 
上部は急登。この上がⅤ峰。   Ⅴ峰より明神岳の主稜線。手前のピークはⅣ峰。
一番奥が明神岳。
 
Ⅳ峰に向けて進みます。足元はガラガラです。   Ⅳ峰にて休憩中。バックは右から明神岳、Ⅱ峰、Ⅲ峰。
 
Ⅱ峰・2回目の懸垂下降中の石川さん   Ⅱ峰の懸垂下降の地点です。残置スリング・支点のチェック。
 
Ⅱ峰を懸垂下降中の國井さん   前穂高岳にて記念の一枚
 

 


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