スペイン・ピレネー山脈彷徨(2)―やはり山が美しい―

中道 宏


1つの峠と3つの山
 スペイン・ピレネー山脈の3 つの村を基地にして1 つの峠と3つの山を登った。村も登山路周辺の花も美しかったが、やはり山が美しい。ここでは登った3つの山を紹介する。

古希最初の山Aneto(3404) ガイド、友人と
 スペイン・ピレネーの最高峰である。スペインの山歩きの流儀も分らないうえ、ガイドブックにはロープが必要と記されていること等もあり、ガイド登山とした。村に遅く到着した6月24日閉店間際にガイド会社訪ねたが、25日は無理で26日(金)を予約した。
 25日 20時にガイドAlberto(英語を話す、海外にクライミング等に出かけている、誠に感じが良い)に会い、朝4時に出発し、1日で往復する、ルートを地図で確認し、装備を確認し、水1.5lを携行することを求められ、ゆっくり歩くが、2時間は休まない、ことに同意した。
 26日 前夜来の雨で、雷鳴のなか4:40にガイド会社に行くが、天気が悪いので、中止。
 27日 4:40に集合し、ガイドの車で登山口駐車場(1896)へ。 5:30 ヘッドランプを点けて出発。Refugio de la Renclusa(2140)に宿泊していた先行者の光が見える。
 2900で数分休む。Pico del Portillon Superionの乗り越し(岩場)でアイゼンを外し、雪面に下りてアイゼンを着ける。ここからのAnetoのすばらしさに息を呑む。
 単調にトラバース気味の登りにAlbertoは、「休まないでゆっくり歩く、後ろから追い上げる者は脇を通るので、譲る必要はない」と言いながらも、天候待ちした登山者で頂上直下のPico de Mahomaが渋滞しないうちに通過したい気持ちからか歩きは早い。 8:50 3040の大岩で10分休む。北方にピレネーが美しく重なっている。 9:35 Colloado de Corones(3208,Refugio de Coronesからのコースが合流するところ)で数分休み、ストックをピッケルに換え、急登する。
 Pico de Mahomaでアイゼンを外し、ハーネスを着け、8mmロープで短く確保される。日本なら鎖場であろうが、支点もない。ガイドはたくさんある岩角で確保している。 10:20 頂上、少し雲が出てきたが、眺望はすばらしい。古希を迎えてから初めての頂上であり、誠にありがたいことである。Albertoは通常6時間のところを5時間少しで登れ、これで昼食を自宅で摂れると悦んでいる。
10:45 下山にかかる。
11:10 Collado de Corones、ここからIbon del Salterillo (池はまだ雪の下)を目指して雪渓を真北に下る。トレースもなく、誠に気持ちが良い。
 さらに残っている雪渓を上手に選びながら(これはガイドにしかできない)放牧地まで下り(2510)、アイゼンを外す。放牧はまだであるが、昨年の牛の糞からキノコが出ているのには驚いた。
 ここからの下りもAlbertoが上手く牛の通り道を辿る。  やっと谷まで降りると小川が流れ、花が咲き、家族連れでピクニックを愉しんでいる。靴を脱いで、小川を渡り、草の上に座りAnetoを見上げると私達の降りたルートが広がっている。
14:08 花を撮りながら、駐車場に着く。登りもさることながら、下りはすばらしかった。

ガイドに勧められたPico de Araguells(3044) 友人と
 Aneto下山後、ガイドのAlbertoが、難しくなく,Anetoやその隣のPico de Maladeto (3360)の展望も良いPico de Araguess(3044)を勧める。確かにガイドブックの第一番目に記されている人気の山のようである。早速明朝のバスの乗り場、時刻を確認する。
6月28日(日)7時にチェックアウトし,Camping Chulseまで歩き、バスに乗り景観を愉しみながら、45分で無人(no guardeda)のRefugio de Coronesに着く。
8:20(1865)松林を歩き始めると、すぐ急登となる。
9:18(2180)最初の湖Ibanet de Coranes。ここから踏み跡がはっきりしないが地図どおり谷の左岸を忠実に辿る。
10:28(2680) 2つ目の湖Iban Infarior。ここにAnetoに向かったであろうテントが1張りある。目標の山もコースもはっきり見える。
 Anetoへの道と分れ、途中歩きやすい雪渓に入り、ガレ気味の岩場に取り付く。数組がおもいおもいのルートから登っている。
11:54 頂上。360度の展望、昨日登ったAnetoもこちらからのほうが姿が良い。

Aneto(3404)    Monte Perdido(3355)

 下りは道が分りやすい。2730で利用した雪渓を離れる。登りと異なり、2つ目の湖からしばらくは右岸を降りる。例によりゆっくり歩く。ここも花が多く、美しい。
14:48 Refugio着。 良い山を紹介してくれたAlbertoに感謝。

円形劇場の頂点 Monte Perdido(3355) 単独
 [perdido]は、道に迷った、見込みのない、など感じの良くない単語である。ガイドブックの英文はThe Lost Mountainとタイトルされており、死の確率の高いLa Escupidera(痰壷)と説明されている。写真を見ると長い急な雪渓がある。危ないと思ったら引き返す。
 29日も2回雨が降り、雷鳴もすごい。
 30日(火)曇り。ゆっくり朝食を摂り、予約のタクシーで登山口に行く。公園事務所でルート、テント場、水場を確認。
9:25(1320) いつものペースで歩き始める。上高地から横尾のような森の中の広い道で、何度か滝の側を通る。滝を高巻記する道を上り少し下ると、森を抜ける。日当たりがよく、右岸の斜面のお花畑がいい。
11:38(1700) Grand de Soaso(Soasoの観覧席)。名のとおりCirco de Soaso(Soasoの円形劇場)のすばらしい眺めで、放牧牛のカウベルが心地良く響いている。
12:10(1750) Cascado de Cola de Cabollo(馬の尾の滝の意味)の前の橋を渡る頃から雨の兆し。
12:55(1910)  円形劇場の最初の壁を越えると、眺望がすばらしい。マーモットも何度か姿を見せる。
13:35(2060) 第2の壁を越え、しばらくすると本降りになり、雨具を着ける。この間登る人はなく、下りは1人だけである。
14:10(2195) Refugio de Goriz o Defugado Ubedaに着く。誠にいいところだが、小屋の周辺の工事中の仮設物でいただけない。
 ヘリコプターの離着陸地以外はどこでも露営して良いようである。問題は夜8時から朝8時までの規則が厳格かどうかである。大型の、同じ色のテントが板台の上に6張恒常的に張ってある以外は、小型が1張り。降雨は確実なので早く張りたい。幸いなことに小型テントの主が下山して来たので尋ねると、いつでも良い、水、トイレは無料、届けはいらない、ただし1日限りとのこと。早速小屋から離れた高台のお花畑の上に張る。石を動かしていけないとあるが、壁までつくってあるのを見て、少し利用した。
 雨の合間にテントの外でガス(こちらで購入)とヘッドの整合に気をつけながら緑茶、味噌汁、明日のウーロン茶とTorlaのスーパーで買ってきたパスタを作った。
 陽が射してきたところで靴等を乾かしながら地図を読む。円形劇場の壁を4段越え、 Pequeno Lago Helado(2985、小さな湖Heladoの意味)からLa Escupideraをつめ,Monte Perdidoに至る。  小屋にはトレッキング客が到着している。小さなテントも3張り増えた。  雷鳴を伴い本降りとなる。明朝8時まで雨であるなら下山することにし、外はまだ明るいが9時に寝る。
 7月1日(水) 夜中に寒くて眼が覚めただけで、6時まで熟睡する。晴れている。味噌汁、葛湯、紅茶、パンの朝食を摂り、テントを畳まず、サブザックを用意する。
6:55 いつものペースで歩き始める。すぐに小屋泊まりの単独者に追い越される。
8:00(2580) 第2段の手前で4人組に追い越される。後はいない。
9:04(2985)  Pequeno Lago Heladoで雪渓を見上げる。これなら問題ないし、踏まれてある。
 ここで4人組に先行し、尾根の岩場の手前で雪渓に降り、アイゼンを用意していると、4人組のリーダー(多分ガイドではないか)が岩場にルートがあることを教えてくれたので、ゆっくり岩場に取り付き、雪渓の脇のガレ場を登る。
10:10 頂上。快晴のもと眺望を愉しむ。
10:30 下山。ガレ場で何組かに道を譲る。私が言うのもおかしいが、外人も年配者もいる。
11:15 Pequeno Lago Heladoを通過。ここからおもいおもいに積まれた小さなケルンを見て楽なルートを探しながら、のんびり下りるが、壁を降りるところを見つけるのに結構苦労する。
12:55 テント着。降雨の兆しがあり、テントの裏を乾かし、早々に撤収。
13:24 雨がポツリポツリする。いつものようにゆっくり歩くが、次々に景色が変わり、きれいな花が現れるので写真を撮るのに忙しい。
14:45 Cascado de Cola de Cabollo、お花畑の大石の上で円形劇場を見渡しながら昼食。今日はトレッキングが多い。
15:00 放牧場では花を、森の道では滝を撮りながら歩き、
18:00 駐車場着。すぐバスがあり、ホテルに戻る。
 僅か2日間の山歩きであったが、Monte Perdidoの円形劇場と花は強く印象に残った。厳しい氷河期を経験していない日本は種が多様であると考えていたが、ここは花が特別に多い。それが氷河に侵食された垂直な壁をもつ円形劇場のテラスを飾り、壁を一段越えるごとに新たな景観を形成している。


詳しくは 『スペイン・ピレネー山脈彷徨記録』をご参照ください。

 


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