◆ニュージーランド独り旅〜ミルフォード・トラック・トレッキング〜
                                  古林 宏

〔日 程〕2008年1月21日〜25日

          
           
(氷河が創ったU字型の谷)              (何でも持っていく鳥、キーア)

∇突然の思いつき

  丁度12月の初旬、病気が回復して軽いハイキングならOKとの医者の許可が出たので、寒い北半球から真
夏の国へ行くのも良かろうと、それまでの‘ 行きたいところ ’リストにある残りの2箇所の1つにあったミルフォー
ドを突然思い立った。早速にネットでアクセスしてみると、直ぐにミルフォードトラックの現地ガイドの案内が出て
くる。入山者数に制限があって、今なら1月の19日が可能というのでその場で予約、前後のホテルも確保して
カードで決済。翌日にHISの安売り航空券を予約して気持ちはすっかりルンルンになった。

∇気楽なハイキングのつもりで現地へ

 とにかく、気楽に近くの山にハイキングに行くようなつもりで直前まで何も準備せず、現地の地図やガイドブック
などの本も購入はしたが、忙しさに紛れて結局1ページも開けずに現地入りすることとなった。直前までに仕上げ
るはずの時間の迫った仕事が間に合わず、往復30時間の飛行時間とロッジでの休み時間はそのために費やさ
れる羽目となって、現地に泊まるホテルを確認したのは、空港に降りた時にネットでプリントしたホテルの案内図
を開けて見たときが初めてという始末。それでも何とかたどり着いたが、よく確認すると1日遅れの到着だった。
1日分のホテル代が無駄遣いということになったが、まーいいか、という気ままでデタラメな1人旅のトレッキング。

∇さて、いよいよトレッキングに出発

 成田まではダウンを着て、現地では半袖シャツに着替えるという冬と夏の反転。これもまた刺激的。現地での
第一印象は青い空と澄んだ空気。それに人が少ないこと。やっぱり日頃のストレス解消、気分転換、リフレッシュ
には正しい選択。湖に面したホテルのベランダで朝日に照らされた岩壁を見ながら澄み切った空気を胸いっぱい
に吸い込んだ。
 さて、課題のミルフォードトレッキングは約54キロの道のりを3日間で歩くコース。実際には4泊5日の行程で、
初日と最終日はほとんど歩くことはなく、観光メインというスケジュール。標高差は1,000メートル。コースはフィヨ
ルドランド国立公園の真っ只中、マウントクック、ミルフォードサウンド、テアナウ湖などを擁する世界最大の国立
公園といわれるところの世界遺産。入山者数を制限する各種の自然保護区でもある。
  その昔、地殻変動で隆起した山とV字型の谷が造られて、その後すべてが氷河に覆われ、氷河の溶解と共に
地面が削られてU字型の谷を形成。そこへ海水がU字型の谷に流れ込んでフィヨルドとなった。そんな谷間の原
生林の散歩道を、そこに自生する高山植物やユニークな野鳥、山々の形成や氷河の侵食過程などを肌で感じな
がらトレックスルーするコース。
  5日間のトレッキングツアーのパーティに参加するが、同行するガイドは最後の人の後をフォローするようにして
出来るだけで、先導したりガイドしたりはしない。従って、私は終始一人で一方通行のコースをトレッキングする。

∇2日目からは雨

 コースはニュージーランド南島にあるクイーンズタウンというところから始まる。空港に近いダウンタウンに一泊
し、翌朝にガイドと一緒に行動するパーティ総勢50名ほどと合流。テアナウという氷河が掘り下げた塩水湖に注
ぐ河口に初日の宿をとる。トレッキングの実質的なスタートはその翌日から始まることになる。
 両側に切り立った岩肌の谷間の原生林を川の流れに沿って道幅1メートルほどの山道を16キロ、15キロ、21
キロと3日間で歩く。中間の15キロのコースが1,000メートルの最高点を越える登りがあって、一番きついとこ
ろ。3番目の21キロは下りのコースだが普段山歩きをしていない人はそれまでの蓄積疲労が顔を覗かす。

∇どんなところ?

 コースは、青い空と紺碧の湖を背景に氷河で削られた原生林の谷間の川を遡って前方の小高い峠を目指す。
川沿いの道はブナの原生林がびっしりと生い茂って、木にはコケが密生して長く髭のように垂れ下がっている。
昼でも日の光がほとんど入らずに薄暗く、湿度が高くて、夏だというのに朝晩は肌寒い。足を止めると蚊やブヨ
がワンサと襲ってくるので歩き続けざるをえない。珍しい草花を見て鳥のさえずりを追っかけ、川のせせらぎや
時に急流となった轟音に耳をふさぎ、よどみとなって両側の岩肌を映し出す風景に見とれたりしていたが、昨日
までは快晴だった天気がその日からは土砂降りの雨となった。
 結局、トレッキングの3日間はズーッと雨に降られっぱなしとなった。聞くところによると、このあたりは年間降
雨量5,000〜8,000ミリだそうだ。しかし、この水量の多さが素晴らしい滝の景観を提供してくれる。絶壁から
流れ落ちる大きな滝は、確かに雨が降る降らないでは大違いで、お陰で幾つかの縦長やら横長の天からの噴
出しを見る幸運に恵まれた。

 ニュージーランドは、その大昔に南米や南極と同じゴンドワナ大陸から分かれたとか。そこでは最初、オットセ
イ以外の哺乳類が居なかったが、その後いろんな動物が持ち込まれて野生化して、この島は天敵の居ない鳥
たちの天国に。そして、天敵の居ない鳥は飛ぶことをやめ、国鳥のキーウィーもそのようになったという話。     
 植物も独自の進化を遂げた。絶滅の巨鳥モアに食べられないようにするため高いところにしか実をつけなくな
った植物。下の方は棘ばかりで、上に行くとやわらかい葉をつける植物。花の色は何故か黄色か白がほとんど。
リンドウも白い花を咲かせる。その理由を聞くと、花粉を運ぶ昆虫の種類に関係があるとのこと。とにかく珍しい
動植物ばかり。特に鳥が人懐っこく、平気で近づいて跳びはねたり鳴いたりしている。キアという鳥は何にでも興
味があって、ロッジで帽子や靴下を置いておくと持っていってしまうので、取られないように見張っていなければ
ならない。

∇思いつくままのメモ

 このトレッキングで印象に残った事を思いつくまま挙げると、先ず、ロッジがグー。これはパーティの外国人が
私に言ったことだが、日本の山も文化もすばらしいが1つだけ気に入らないのは山小屋が汚いことだと。そうい
われると私も同感だ。ヨーロッパでもそうだが、このニュージーランドのロッジは格別。各部屋は4〜6人で2段
ベッドのシャワーつき、シーツは新しいのに取り替えられており、洗濯機や乾燥室もある。トイレは水洗。別に
個室があって、私は一人旅だった事もあって少し余裕のシングルルームを申し込んだ。一日あたり1万円強の
追加料金だが、その費用の何倍もの贅沢三昧を味わった。
 国際化の波、このニュージーランドでの特徴は日本人とインド人。タクシーやホテル、空港のワーカーで多い
のはインド人。驚いたのは、なんと日本人の多いことか。‘Ultimate Hikes’というミルフォードの現地ガイドにエ
ントリーをしたのだが、来て見ると当日立ち会ったガイドさん2人のうちの1人が日本人。確かに参加した50人
のメンバーの約3分の1が日本人だった。町を歩いていても日本人旅行客と、それを相手のビジネス用看板が
目に留まる。しかしまだ有色人種に対する若干の差別を感じたのは残念だった。

∇かかった費用は?

 今回は個人でのツアーで‘Ultimate Hikes’というガイド会社に払った金額が2千550ニュージーランドドル。
HISの航空券が22万5千円。あと、前後のホテル宿泊費などで、合わせると約50万円についた。


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