◆キリマンジャロ山 登頂記  佐藤 征男

   

今では半世紀前のことになるだろうか。昭和33年に朝日新聞社から発行された「アフリカ横断1万キロ」
早大赤道アフリカ横断隊偏の単行本を読み強い影響をうけていた。思い立ってから実際にアフリカに向か
って飛び立つまでに半世紀もの長い年月が過ぎていた。
 雇われる身の悲しさで、長い休暇も取らないでいたが、今回とうとう夢が実現することになった。
辺境の旅を専門とする旅行会社が募集した13名の一員となった。日本から直接アフリカへの航空便はない
ので、インド西岸の都市ムンバイで1泊してアフリカへ向かった。自宅を出発してから44時間が過ぎていた。
ケニアの首都ナイロビから車で国境を越えて、登山基地となるタンザニアのアルーシァの街に夕方に到着した。

登山第1日目(アルーシャのホテル〜マンダラハット)
 アルーシアの街を出発した車は、サバナ気候帯で疎林の丘陵地を東へ東へ走り、草原の彼方に大きな白い
帽子を被った山容が姿を現した。これぞキリマンジャロ山(スワヒリ語で輝く山という)である。
 登山口のマラングゲート(標高1,800m)はユーカリの大木が森となり国立公園の管理事務所が置かれてい
た。小銃を持った警察官が入山者を監視している。ここで入山手続きを済ませてガイド達と合流した。私たちの
グループは登山者13名、ガイド9名、コック2名、ポーター26名合計50名の大人数となった。
 良く整備された登山道をガイドを先頭に登りだす。密林の中の登山道を約4時間半歩き小高い丘の上のキャ
ンプ地マンダラハット(標高2,727m)についた。水が豊富で水道、トイレが完備している。夕食の準備ができる
間に、高度順化を兼ねて近くのマウデクレーターという古い火口跡まで行く。密林の中でブラックアンドホワイト
モンキーの群れにあう。

◎第2日目(マンダラハット〜ホロンボハット)
 キャンプ地を出発して間もなく、小川を渡る橋のたもとにグリーンモンキーが数メートル先の繁みにおり、皆が急
いでカメラを向ける。すれちがうポーターや登山者とコンニチハー、ハロー、ジャンボー、(スワヒリ語のあいさつ=
コンニチハ)とあいさつを交わしながら草原の中を行く。ピンクや黄色の花の名前などを話しながらゆっくり登る。
再び流れのある大きな谷を渡る。東アフリカ特有の植物というデンドロセネキオの大きな株を見る。前方の尾根を
越えると今日のキャンプ地ホロンボハット(標高3,720m)が見えるという。富士山頂とほぼ同じ高さである。雲の
中にいるのか視界はほとんど無い。やがて目の前にいくつもの山小屋が見えるようになってきた。ホロンボハット
に到着した。

◎第3日目(ホロンボハット滞在)
 今日は高度に慣れることを目的にマウェンジ峰方面に登る日である。雲は低く垂れ込め、時々霧雨が降っている。
乾季のキリマンジャロ山にきて雨に降られる。ついていないな?と思う。セブラロックと呼ばれるあたりを過ぎて、
オーバーハングした大きな岩のしたで雨宿り、もう少し高度を上げておきたかったが不調の者もおりホロンボハット
に引き返した。

◎第4日目(ホロンボハット〜ギボハット)
 モーニングコールで紅茶を運んできたガイドの声で目を覚ました。寝袋の中で紅茶を飲み、洗面器の熱いお湯で
久しぶりに顔や手を洗う。昨夜は風が強く吹き気圧配置が変わった。快晴、雲海の上に朝日が昇ってきた。朝日を
受けてギボ峰の氷河が輝く。日本に電話を入れた。持参した国際携帯電話が良く聞こえる。ここはアフリカの奥地、
便利な世の中になったものである。
 ホロンボハットからロアールートという砂礫地帯のルートをゆっくり、ゆっくりキボハットを目指して登った。日射しも
強く暑くなる。雲の中に隠れていたマウェッジ峰の鋭い岩峰も良く見える。このあたりの砂礫地帯から見るギボ峰が
写真で紹介されているキリマンジャロ山だという。なだらかな道をゆっくり登りキボハット(標高4,703m)ついた。
ここの標高はヨーロッパの登山で何度も経験している高度なので不安はほとんど無い。登山開始から朝夕測定して
いる脈拍、動脈血酸素飽和度(パルスオキシメータで測定)も良好な状態であった。

◎第5日目(ギボハットー山頂―ホロンボハット)
 午前零時起床の予定が、皆が少し早めに目覚めてしまう。カップラーメンとビスケットで簡単な朝食を済ませ、午前
1時15分にヘットライトを灯して出発した。風も無く満天の星空である。3度目となる南十字星だけ名前を覚えた星空
である。
 砂礫の固い道を、ゆっくり、ゆっくり登った。背中のザックは霜がおりて真っ白である。1時間前に出発した欧州人パ
ーテーのライトの灯かりが遠くに見える。午前6時を過ぎてギルマンズポイントが近づいた頃に東の空が茜色に輝く。
マウェンジ峰(標高5,151m)はるか下の方に見える。やがて大きな岩がゴロゴロでてきた。まもなくギルマンズポイ
ント(標高5,682m)標識がでてきた頂上の一角に到着した。気温マイナス12度。氷河が朝日を受けて眩しい。大き
な火口は雪と砂礫である。遅れ気味の4名はここから下山した。残る8名で最高峰のウフルピークを目指した。火口
壁を少し下り雪が氷結したトラバースルートを進む。足場が悪いところではガイドがサポートしてくれる。快晴、無風の
絶好の登頂日和に恵まれて、午前8時47分アフリカ大陸最高峰キロマンジャロ山頂ウフルピーク(5,895m)に立っ
た。だだっ広い山頂に凍った雪のかけらが残る。そして氷河が大きく口を開けている。皆がかわるがわる写真を写し
て山頂には15分位いただろうか。天候が変わらないうちに下山にかかった。
 氷結したトラバースルートでは火口側への滑落の危険性があるので、要所でガイドのアルフレットがサポートしてく
れるが、滑落の危険性があるので慎重に行動した。ギルマンズポイントから岩のごろごろした斜面をすぎると砂走り
となった。途中で何度も立ち止まりながら、アルフレットとギボハットを目指した。ギボハットの近くまでくると、散歩に
登ってきたのだろうか若いガイドたちがニコニコ顔で迎えてくれる。言葉は通じなくても全身から喜んでくれている様
子が伝わってきた。若いアルフレットのペースで下山していたので気がついたら、パーテーの中で最も早くギボハット
に到着した。ギボハットの寝袋の中でウトウトして休息して再び下山にかかった。ホロンボハットまでマウンェッジ峰を
正面に見ながら長い、長い砂礫の道をキボハットにくだった。

◎第6日目(ギボハット〜マラングゲート)
 今日も快晴の朝を迎えた。キボ峰を背景に皆で記念撮影、何度も何度も氷河の見えるキボ峰を振り返りながら、火
山岩のごろごろした草原地帯を経て、登りで1泊したマンダラハットで大休止。さらに密林の道を先頭でどんどん飛ば
しマラングゲートに急いだ。
 ゲート前の芝生に全員が集合。タンザニア国立公園当局の登頂証明書をチーフガイドからひとり1人いただく。ガイド、
ポーター全員が集合してキリマンジャロの歌を手拍子で歌ってくれる。ありがとう。さようなら。握手。握手。

  


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