山麓は高山植物の宝庫  大姑娘山(タークニャンシャン)

木村 修      

丘陵に広がる草原は、緑々と連なり黄色やピンク、白の花々が絨毯を敷き詰めたように点在して、登って来た疲れも取れて晴々とした気分にしてくれる。高山植物に関する知識に疎いながらも、自然の美しさの前には我を忘れる思いがする。この山麓には、エーデルワイスの群生やシオガマ、サクラソウ、ジンチョウゲ、アズマギクなど200種以上の高山植物が咲き乱れ、踏まないと歩けない程の群落もある。特に幻の青いケシと言われるメコノプシスは、ヒマラヤの枕詞が付く程ヒマラヤのイメージの強い花であるが、実際の分布の中心は、むしろ中国西部とのことで、この山では驚くほど散見できる。花好きには、まさに天国とのことだ。中国四川省にある四姑娘連山は、アパ・チベット族自治州に位置し四姑娘山6250mを最高峰に、三姑娘、二姑娘、大姑娘各山の4つの峰が並んでいて、恰も4人の少女が、その美を競っているかの様に見えることから名前が付いたといわれる。

この最高峰は’81年に同志社大隊により、2度目の挑戦で南東稜から初登頂された。しかし、4つ目の長女とも言うべき大姑娘山5025mは比較的容易に南面から登れる一般向きの山である。これが今回目的とする山である。7月初旬、5000米峰へご一緒しませんかとの呼び掛けに、つい今まで仲間と進めていたスイス山行計画を心苦しくも反故にして、花で飾った大姑娘山によろめいてしまった。

この度の陣容は、中高年男女10人と若いツアーリーダー。この中で我々72、71、68、67歳の4人のオールドボーイが成否の鍵となった。全日程は10日間。このうち日隆基地を出発して当地に戻る迄の5日間が山行日程となる。北京で入国手続き後、一路四川省の省都、人口800万人の成都に入る。一泊後280kmの北西への旅は、前半は舗装された快適な道も奥地は開発も遅れ悪路と汚いトイレに悩まされる。途中、中国古代ダム施設の都江堰や野生パンダ保護区を見物、このため臥竜(ガリュウ)と日隆(ニチリュウ)に各1泊する。

日隆の四川省登山協会で入山手続きを終え、現地で経験豊かなチベット人のリーダーと、4人のポーターがついた。4人は20歳前後の公安の研修生で、さすがに礼儀正しく頼もしい青年達である。また荷物は馬に預け、さらに水や食べ物、雨具など携帯品さえも依頼すれば替わってくれる。全くの大名登山である。

3100mの日隆から1時間程登ると仏塔のある尾根に出る。稜線沿いに四姑娘山群の4座が綺麗に連座して見える。ここから一面お花畑の草原が広がる。起伏の山腹路を約15km、海子溝沿いに緩やかに登って行く。途中、下山してくるパーティーと会ったが、大姑娘山は雪が深くて登頂を断念したとのこと、少々不安になる。ベースキャンプとなる老牛園は標高3600mあり明るく開けた湿地帯にある。テントが点在し現地の人もいて活気がある。川が流れ花々が迎えてくれる。しかし風が強くなり夜半には冷え込みテントは凍りつく。翌2日目は終日、高度順応で上流にある大海子湖まで行き3900mまで上がって来る。キャンプに入って3日目、BCから4500mにあるアタックキャンプに向かう。4時間 半をかけ斜面を登りカール脇台地状のテントが点在しているガレ場に到着。寒いが雪は無い。

4日目、いよいよ山頂を目指す。体調は良い。ガレ場の斜面を1時間ほど登ると白一色の雪。列を作り一歩一歩登る。コルに出る頃は雲の中。雪は深いが硬くて行けそうだ。たまに、雪が抜けて足が埋まる。深い。 山頂は、思った以上に近かった。喜びの一瞬である。時々雲が切れて四姑娘山が顔を出す。雪化粧の山は本当にすばらしい。登頂後、一気にBCに下る。BCでは、その夜スタッフや現地の人と歌や踊りで交歓、登頂の感動を味わい祝した。しかも、全員無事に達成した喜びは大きかった。

 


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