■特別講演会「エヴェレスト単独登頂者に聞く」 2008年7月

  ◎期日 2008年7月5日   ◎会場 オリンピックセンター   ◎講師 大山光一氏(日本山岳会)
  ◎参加者 シリウス、日本山岳会 計27名

 
       (講演する大山光一さん)

 当会でのエベレスト講演会は、2年ほど前に世界最高齢登頂(当時)を成し遂げられた荒山さんをお迎えして
そのお話を聞いたが、今回は商業公募隊に依らず自分独りで登山隊を組織し、計画立案から現地交渉も含め
て全て自作で登頂された大山光一さんを講師に迎え、海外登山やエベレスト登頂、登山に対する心構えなど
をお話し頂いた。
  大山さんは昨年5月、シェルパ2人との3人だけという極小パーティーでチベット側からチョモランマ登頂に
成功された。エベレスト登頂やセブンサミッツは我々にとっては夢のまた夢で実現の可能性は殆ど無いが、
講師の淡々とした語り口のなかにも、山に対する情熱や意欲、登山の哲学には引きこまれるものが多く、30
人近い参加者はプロジェクターに投影されたセブンサミッツやチョモランマの珍しい映像を見ながら、その体験
談に聞き入っていた。
(編集者注=「チョモランマ」はエベレストの中国での正式名称です。従って、本稿では中国側からの場合を
「チョモランマ」、一般的な記述は「エベレスト」としました)。

【大山光一氏紹介】
 1948年埼玉県生まれ。10代後半より本格的な登山を開始。北・南アルプス、八ケ岳、谷川岳、黒部など
で岩壁登攀、積雪期登山を中心に活動。1973〜4年、埼玉県岳連のアラスカ登山隊、カラコルムヒマラヤ登
山隊に参加。25年の空白の後、2000年より登山を再開、国内及び海外で登山活動をされて現在に至る。
会社員。
[世界七大陸最高峰登頂歴]
 1973年6月北米大陸「マッキンリー」、2001年12月アフリカ大陸「キリマンジャロ」、2002年12月年南米
大陸「アコンカグア」、2005年5月オーストラリア大陸「コジウスコ」、2005年7月ヨーロッパ大陸「エルブルー
ス」、2006年1月南極大陸「ビンソンマシフ」、2007年5月中国チベット「チョモランマ」
[8000m峰登頂歴]
 2006年5月中国チベット「シシャパンマ」、2007年5月中国チベット「チョモランマ」

【講演要旨
  「夢をかたちに」というサブタイトルで登山を始められた頃のことからチョモランマ登頂までのことをお話し下
さった。内容は、1.登山を始めた動機、2.空白の後再び山へ、3.世界7大陸最高峰登頂歴、4.チョモラン
マへの道<計画から実行へ>、5.残された世界最高峰へ、6.行動日程表、高度順応など多岐に及んでいる
が、ここでは紙幅の関係からチョモランマ登頂に係わる特記事項要旨を掲載するに留めた。

(1)[何故単独を志したか?]
 商業公募隊に参加すれば種々な面で面倒が省けるが、単独で計画した理由は以下のとおりである。
  @第一に、自分の可能性を信じてみたかったこと。即ち、全ての結果を他責にしないで、「自己責任」、
    「自力下山」という妥協の許されない極限を単独で耐えることができるかどうか。
  Aシェルパとの関係を大切にし、できればシェルパと登頂を共有したかったこと
     (シェルパ2人も一緒にチョモランマ登頂に成功)。
  B商業公募隊はオーバーユースになりやすい。隊を極小化することによって、エベレストの山岳環境を守り
    たかったこと。
  Cサラリーマンの身では日程などの関係で、商業公募登山隊に参加しづらいこと。

(2)[単独で計画することの大変さ]
   情報の収集から始めて、単独登頂に適するルートの選択、現地との交渉、装備の発注、登山計画書の
  作成、費用の工面など、チョモランマを独りで実行するということは想像以上の大きな負担となった。スポン
  サーのいない登山隊、組織的な背景の無いサラリーマンが独りで取り組むには余りにも課題が山積してい
  た。これらの問題を解決するため、チョモランマ登頂の前年暮にネパールを訪れて、チョモランマ同行予定の
  シェルパと二人で冬季アイランド・ピークの登頂を行い、シェルパとの意思疎通、高度順応を進めた。また下
  山後に現地関係者とチョモランマ登頂の最終打ち合わせを行った。その結果、天候と身体のコンディション
  に恵まれ、かつシェルパとの意思疎通を図ることができれば、必ず登れるという確信を得た。この冬季アイラ
  ンド・ピークと、前年に登ったシシャパンマで学んだ高所登山が大きな自信を与えてくれた。

(3)[サラリーマンの身でもセブンサミッツやエベレスト登頂は可能である]
   普通のサラリ−マンにとって、年に何回も長期の海外登山に出かけることは、仕事の面でも、家族にとっ
  ても相当な負担であるが、これらの困難は強い意思さえあれば克服可能である。仕事の面では、スケジュ
  ール管理を充分に行って、留守中の部下の仕事を明確に指示しておくこと。また、日頃から上下左右の関係
  を大切にして休暇を取り易い社内環境を作っておくことも重要である。自分自身は出発の前夜まで通常に勤
  務し、また帰国翌日から出社した。有給休暇を溜めて活用することも重要である。

(4)[普通の人でもエベレスト登頂は可能か?]
   自分はエベレスト登頂を目指してから、目標達成に至るまでの登山計画書を作り、これに沿って計画的に
  国内、海外の山々に登ってトレーニングを重ねてきたが、日頃そのための特別な訓練などはしなかったし、
  特に高所登山に適した身体という訳でもない普通の人間である。エベレストは選ばれた者だけが登れる非情
  の世界ではあるが、強い意志と周到な準備・工夫があれば健康な人なら不可能ではない。
   しかし、シェルパやガイドのサポートにも限界がある。彼らも自分自身のことで手一杯の場合も多い。厳しい
  言い方かもしれないが、登れる力があって、かつ「自己責任」で行動でき、「自己下山」できる人のみに許され
  た山であるともいえる。

 大山さんは講演の最後を、「登山に王道はない。人生と同様に地道に歩みを続けることによって道は開けるの
であり、過去のことは変えられないけれど、自分の可能性を信じることによって未来を変えることはできる」と結ば
れたのが印象的であった。
 エベレスト(及びセブンサミッツ)を達成された今後は、登山の原点に戻って国内・海外の山々を歩きたい、
当面は残るヒマラヤのジャイアンツ(8000m峰)12座を目指されるそうである。
 益々のご活躍をお祈りしたい。         (文責:「シリウスジャーナル」編集部)


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