◆特別講演会 『夫婦で踏破 58日』の伊賀敷ご夫妻に聞く

 日本海・親不知海岸から太平洋沼津千本浜海岸までの700kmを、3000m峰21座30峰を登頂しながら
夫婦二人で58日間掛けて一気通貫で縦走されたご夫妻をお迎えして、興味深いお話を講演して頂いた。
以下は参加者の報告である。
 ◎日時 2008年1月23日  ◎場所 オリンピック・センター  ◎参加者 当会、日本山岳会他30名。

 

伊賀敷ご夫妻。縦走に使われた山靴、衣類、著書。       講演される伊賀敷洋一さん

■『夫婦で踏破58日』に教えられたこと  中道 宏

 会報の案内に加え、会の枢要な方からも誘いのメールが届き、この講演には「58日間、35kgを背負って、
奥様と二人で」を超える何かがあると期待し、友人と一緒に聴講した。伊賀敷洋一・晴江『夫婦で踏破58日 
日本横断縦走700キロ』(文園社、2007)が既に出版され、その書評もこの講演会を企画された赤澤東洋さ
んが「山の本」(2007秋号)に書かれているが、私が驚嘆し、畏敬の念を抱き、教えられたことを略記する。

 その一つは日頃の鍛錬である。ハセツネカップ24時間耐久レース10回出場、・・・マラソンを完走できる
ランニング、ザックには必ず10リットルの水を余分に入れる山行など、いずれも私には絶対に実行できない
ことを淡々と語られた。ハセツネカップには5年前に1回出場し、毎年続けようと考えていたが、他の行事と
の重なりや申し込み遅れで途絶えている、山は歩いて登るものと屁理屈をつけランニングを敬遠している、
またザックは可能な限り軽くすることにつまらぬ工夫を重ねる、わが身が恥ずかしくなる。

 二つは、気持ちの持続である。8年間入念に準備されたことに加え、58日間毎日歩き続けられた。日本人
は「しない」でなく、「できない」理由を考えるのが得意と揶揄されているが、2度も台風に遭遇し、たびたび山
を降りて紅灯の巷を目にしながらも、気持ちを持続できたことはすごい。私は58日間酒を断つことすらできそ
うにもない。

 三つはお人柄である。食糧を荷揚げし、迎えてくれる友人に恵まれている。また縦走途中の交流をうれしそ
うに話された。山なかまに恵まれるのはご自身のお人柄によるものと思う。ご夫妻の後を継げそうにもない私
たちに、あれほどの資料をご準備いただいた誠意がそのことを教えている。

 これら三つ、すなわち体力・技術、気力、山仲間は山行に欠くことができないものである。蛇足になるが山行
の技術は、目指す山行に合ったものであれば良く、またその基本は荷を持って歩くことである。これら3つが合
わさって今回の偉業を達成されたのであり、ご夫妻はまさに、山行の達人である言える。この3つ、体力・技術、
気力、山なかまを自己評価し、その積を求め比較してみると、自分の至らなさが良く分かる。

 山行の達人は世に多くいると思う。しかし、夫婦揃ってはなかなかいないのではないか。山なかまに配偶者
がいることは本当にすばらしいことである。仕事優先で家庭を配偶者任せにしてきたサラリーマン上がりは、残
念ながら夫婦一緒に過ごすことに慣れていない。私もたまに一緒に旅行に出かけるが、自分は点数を稼いでい
るつもりでも、うまくいかない。付け刃ではうまく行くはずはない。山行はもっとも協調を必要とするものであるが、
もっとも自我が出るものでもある。それを58日間続けられたことは、独りよがりに山行を愉しんでいる私には気
の遠くなる話である。ご夫妻は山行の達人だけでなく、人生の達人にちがいない。


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