■湯河原・幕岩の岩トレ ―歳を忘れた高年たち― 鳥澤 誠

〔日 程〕2008年5月28日(水)〜29日(木)
〔場 所〕湯河原幕岩
〔参加者〕大塚忠彦(L),別所宗郎(SL),猪瀬精孝、名倉登美枝、萩原真理生、
       堀内晃代、有元ナチ子、鳥澤誠、ゲスト
(日本山岳会 山崎郁郎)

 
 ちょっと緊張気味?! へばりついた蛙?              歳を忘れた高年の面々

 幕岩は湯河原の幕山中腹に展開する岩場、クライミングのゲレンデである。幕山の北に星ケ山があり、手前
の鞍部に自鑑水という池がある。その昔、源頼朝が挙兵して戦った大庭影親に敗れて、この辺りの山中を逃げ
惑い、この池に立ち寄った際に、水面に映る惨めな自分の姿に悲嘆して自害しようとしたが、家来の武将に止
められた、という言い伝えがある。そして何よりも、海に近く、気候も温暖で山の高度も低く、冬でも歩けるので、
この山は気軽なハイキングコースなのである。類に漏れず、私も十数年前、幕山から南郷山へと歩いたことが
あった。この時、幕山公園から眺められる岩場に、クライミングをする人たちの姿を見つけたが、自分とは別世
界のことと思っていた。

 湯河原駅前9時のバスに乗る。幕山公園、終点で下車。登山口まで舗装道を数分歩いて梅林の遊歩道に入
る。この梅林は3000本あるというから、咲いている季節に来れば見事な眺めであろう。テントウムシ・ロックは崩
落のため使用禁止で、道にロープが張られていた。もう少し歩いて茅ヶ崎ロックへ。既に先客が7~8名。トップロ
ープをセットしてから、この場所は込み合うので、我々はグループを分けて、ひとつは別の場所ですることにした。
 一見、取っ掛かりが無いように見える壁を眺めて辟易となる。この前クライミングをしたには5年も前だ。それに
去年の夏には、脊柱管狭窄症による坐骨神経痛を患って、半年間山に行けなかったのだ。3月頃から山らしい
山に登るようにはなったが、身体の柔軟さに自信が無いのだ。私の順番が来て決死の思いで取り付く。緊張し
ながら中間点まで登ったがそこからが進まない。ダメだ降ろしてくれ、と言おうと思ったが、私にも意地があった。

 やっと足が上がる高さのフット・ホールドに、つま先を掛けて力をいれる。落ちてもいいと思った。上がった。
その上は夢中で登った。てっぺんの大きな岩に肘まで掛けたときはほっとしたが、はやく降りたい気持ちでもあ
った。ビレーしてくださる別所さんを信用しないわけではないのだが、空中に身を放り出す瞬間が恐怖であった。
あの瞬間の気持ちは、特攻兵が敵艦に突入を決意した瞬間の気持ちと似ているのではないかと思ったりした。
下に降りつくと、緊張していたあまりか少々気持ち悪くなった。それでも二本目以降は徐々になれて、午後の最
後の五本目には、かなりのスピードで登れるようになった。(ビレーのかた有難うございました。)

 それにしても猪瀬さんはすごい。私よりも六歳も年上なのに、怖さというものを知らぬげに登るのだ。難しいルー
トにも挑戦するし、たいしたオジサン、いやオジイサンである。女性たちもすごい。一度その気になると怖さを忘れ
るのか、かわいらしいお尻を見せながら臆面も無く登るのだ。(ひんしゅくを買いそうですね)。先客のグループも、
半数は同年代の女性である。尾根歩きもクライミングも、今や女性が席捲しているようである。

 話が逸れますが、幕岩の案内書を見てわかったのですが、登攀ルートにそれぞれ名前がつけられていて、それ
がまた楽しい名前なのです。子供の頃に読んだ、少年少女文庫系の名前だとか、全くふざけた命名があるのです。
例えば、ピノキオ、アラジン、ガリバー、シンドバッド、あかずきんちゃん、トムソーヤー、シンデレラ、一寸法師とか、
マゾおけさ、かってにシロクマ、ゲイシャワルツ、もうじきバカデス、いんちきするな、割礼、などなどです。おそらく
ルートを開拓した先人たちが付けたのでしょうが、真剣に命がけで登攀していても、憩いの時間にはユーモアの
センスを発揮するゆとりを持っていたのですね。いかにも山男らしいですね。

 五本目を終えるとすっかり疲れてしまった。が、最後に自力での懸垂下降の練習だ。壁の上に全員揃い、セルフ
ビレーをして順番を待つ。もうすっかり度胸がついて楽しい下降であった。打ち上げは、幕山公園近くの「ししど庵」
へ。ここには押し花、押し葉で作った絵が展示されている。奥さんの作品であるがなかなかの芸術である。ひとしき
り呑んでほろ酔いになったころタクシーが到着した。私と猪瀬さんは帰らせていただきましたが、残った方々は、
さて明日は雨だし、どう過ごしたのでしょうか、私にはあずかり知らぬところであります。(ご自分たちは登攀せずに、
私たちのためにビレーやご指導をしてくださいました、大塚さん、別所さん、有難うございました。)


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