◆晩夏の西上州 立岩と兜岩山
      −ルンルン気分の達成感− 坂井 康悦

             

〔日 程〕2008.9.13〜15
〔メンバー〕単独

 群馬県と長野県の県境は上信国境といわれ、ひなびた山あいをいくつも小さい峠が越えている。西上州の
最奥の山里・大上から信濃の小村・巌弧へ細々と通じる星尾峠もその1つである。9月13日〜15日の連休に、
前々から気になっていたこの峠をはさんだ岩峰を2日間に亙って挑戦した。約2ヵ月前より腰部に違和感があり、
友人を誘っての山行だと、万一迷惑をかけては申し訳ないと考え、マイ・ペースで行ける単独行とした。

 星尾川にかかる星尾大橋の手前で、信州臼田へ通じる田口峠への道と立岩の登山口への道とを分ける。
星尾川右岸の高みに続くこの道が、形相きびしい立岩をながめる最高の地点だ。立岩橋を渡って線が滝の
駐車場に8時に着いた時は、もう先客が3台停まっていた。お仙さんが身投げした狭い岸壁を割って落ちる
50mの一条の白糸の滝が、なんで「仙が滝」でなくて、「線が滝」の名称になったのか案内板には説明がなか
った。駐車場から荒船山への沢沿いの道をすすむと北登山道と南登山道の分岐に出る。周回するために、
南登山道の立岩直登コース「中級者向(急登)」の杉林の雑木林を登るとやがて岩壁の直下に出た。壁と壁
とにはさまれた岩屑の急斜面に長い鎖があるのを見落として、にっちもさっちも行かない岩壁にぶつかってし
まった。元に戻ってようやく見つけた岩屑の急斜面を鎖に頼って登り切る。すぐにまた岩稜のへりを回り込む
長い鎖場、細い岩棚を斜上する処が今日のハイライトで、虚空に身体がさらわれそうでスリル満点で面白かっ
た。続く数十メートルの鎖場を登り切ると山の背に出、双頭をなす立岩の東・西の峰との鞍部であった。まず、
東峰から登り眼下に見える大上部落のながめが素晴らしかった。西立岩の頂が最高点。鞍部から頂きまで
岩瘤を2、3越えるだけのわずかな距離だが、ここでも踏み跡を見失い岩壁直下で立ち往生してしまった。
頂は案の定、狭かったが下りの北登山道の尾根に繋がっていた。明日登る荒船山から田口峠へとつづく西
上州西辺の山稜が目の前に見えた。
   
 駐車場の先客は荒船山へ登ったのか、誰一人とも会わなかった。ところどころに鎖場、岩場があるものの
雑木林のヤセ尾根に通じる安穏な道を下る。大きな岩瘤に行く手をさえぎられた処で尾根をはなれ、気持ち
よく林の中を下ると威怒牟幾(いぬむき)不動尊に出た。飛沫状の滝を落とす岩壁の高い岩屋にお堂の残骸
が見えた。星尾峠への北登山道をそのまま下り、今朝の登山口の線が滝へ無事下山した。ロスタイム、
休憩もいれて4時間余の気持ちよい周回コースであった。

 2日目、厳弧の小村より荒船不動尊〜星尾峠を越えて兜岩山へ登る。昨日とは反対方角に佐久の中込
から内山峠への内山街道を車で走る。数キロに亙ってコスモス街道と銘打って、この季節色とりどりのコスモ
スがこれでもかと咲き乱れ、秋の美しい風景だった。登山口には昨年秋の9号台風の影響でいたる所、倒木
やら道路の陥没修復の土木工事中で、入山禁止の立て札があった。登ってすぐ、行く手右に兜の鉢を伏せた
形のその名も「兜岩山」の特徴ある山体がローソク岩を従えて見えてくる。7時半に出発して、ゆっくり慎重に
崩落した沢を渡り林の間を登って8時に荒船不動尊の社に出た。 
        
 古い大きな社殿を回り込み、一度見過ごしてしまった倒木で荒れた沢沿いの道が星尾峠へ続いている。
途中から左へ荒船山登リ口を見送り、荒れていなければ歩きやすい荒船山自然歩道の樹林帯のジグザク道
を登り詰め、小雨模様の中、40分ほどでひっそりした切通し状の星尾峠に出、ひと休みする。星尾峠は上信
国境の荒船山から兜岩山へ延びている稜線上にある峠で、木の間越しに立岩の岩峰群が見えるはずであっ
たが、小雨と霧で見えなかったのは残念だった。峠より南へ下ってゆく道は通行止めなっていたが、昨日の
上州・大上の山村へ、東への道は荒船山へ続いている。兜岩山へは西の雑木林のゆるい起伏を登っていく
と30分ほどで御岳園地という笹の中に一基の石祠が淋しく祭られていた。御岳から少々下っていくと稜線は
細く左右が切り立ち、ローソク岩の北側の急な斜面をトラバースしていく 今日の核心部だった。回り込んで
稜線に出ると笹の道になり、登り詰めた処で標識もないが二股に分かれ、兜岩山へのかすかな踏跡をたより
に、雨にぬれた笹を分け入ること20分もすると頂に出た。誰にもあわなかったので、濡れたズボンを脱ぎしぼ
って木にひっかけて干す。雑木林がまばらに生えて展望も利かず標高1,368mの三等三角点があるだけの
期待はずれの頂きで、「この山は遠くから見る山か」と思いながらぼけーとする。帰路は霧の中をなんだか
永年の思いの達成感か、ルンルン気分で早や秋の気配のすすきの穂を分け快調に下る。内山峠を越え
下仁田への途中にある「荒船の湯」でひと風呂浴び、ほっとした気分で帰京した。


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