◆ 「暑熱障害(熱中症)・熱傷、CPRとAED」 杉坂千賀子

 (1)暑熱障害(熱中症)

   高湿、高熱の環境下において体温調整の障害によって体温が上がって起きる障害をいう。

  ◎熱中症になる原因

    ・ 環境(気象など)
    ・ 年齢や生活環境
    ・ 水分、塩分補給ができているかどうか
    ・ 健康状態、疲労状態
    ・ 衣服のよしあし(通気性)
    ・ 生活習慣(睡眠状態、食生活)

  ◎発生時の気象・・晴天時とは限らず、曇天でも高湿度の場合に発症

    【参考】「アスリートのための行動指針(八王子トレーニングセンター)」より引用
       ■気温=27〜32度、湿度=70%以下⇒⇒汗かきやすくなる。
                                   熱に弱い人、健康状態が不良の人に注意。
       ■気温=27〜32度、湿度70%以上⇒⇒より注意が必要となる。
        ■気温=32〜38度、湿度70%以下⇒⇒15分おきに水、ミネラルを補給、
                                  30分おきに休息。濡れた着衣の交換
       ■気温=32〜38度、湿度70%以上⇒⇒トレーニング中止
     (通常なにもしないで快適と感じるのは温度25度、湿度60%くらい)

  ◎熱中症のステージ別判断、症状、処置

    ≪T度≫
       症状・・めまい、筋肉のけいれん、足のつり、止まらない汗
       処置・・涼しく風通しのよいところへ移動
       衣服を緩めて安静
       水分ナトリウムの補給
   
    ≪U度≫
       症状・・吐き気、嘔吐、頭痛、倦怠感
       処置・・T度に準じるて水分ナトリウム分を補給するが、自分で摂取できないときは医療機関へ

    ≪V度≫
       症状・・過度な体温上昇、歩行困難、意識不明、けいれん
       処置・・ 至急の救急搬送をしないと死亡に至る。待っている間は風を送る、
            わきの下などを濡れタオルなどで 冷却して体温を下げる。

    ※応急手当が可能なのはT度まで。U度以降は必ず医療機関へ。
      熱中症は重篤になると一命をとりとめても「横紋筋融解症」などになると
      腎不全を起こして人工透析をするようなことになりかねないので安易に考えないことが必要。

  ◎熱中症の予防

    ○帽子をかぶり、うなじは直射日光にさらさない
    ○通気性のある衣服、こまめに着脱。体温調整をする。
    ○スポーツドリンクの摂取
    ○湿度が高いときは注意して水分を補給
    ○早期発見、軽度のときに手当をする。経過観察を怠らない。

  ◎脱水量の算出

   目安としては、脱水量を体重の2%以下にとどめるようにする。
       脱水量(g)=5g×体重(Kg)×時間
       例・・60kgの人が8時間あるいたとすると2400g(5g×60Kg×8)
          脱水量を2%以下におさえるには、1200g(60Kg×20)の水分
          を取る必要がある。

(2)熱傷

 ◎熱傷の原因と症状

   ・熱傷は、熱湯や蒸気、炎、熱い物体などに触れて起こる。山での熱傷の事故は9割以上が
     調理するときに起きている。
   ・不注意による着衣、シュラフへの引火にも注意が必要。
   ・体表面の20〜30%にわたる広範囲の熱傷を受けると重傷で治療を急ぐ。時間による熱作用は
    続くので症状がかわってくることに注意 (軽いと思って重症にしない)。

   [体の部位と比率]       

     1度             2度        3度
やけどの深さ 表皮 真皮(浅い中間層、深い中間層) 皮下脂肪(全層)
色・外見 浅い中間層・・ 赤、水泡ができることもある
深い中間層 ・・ピンク、白
白、黒、茶色
性状 正常 むくみ。厚くなる 皮革様になる
血液循環 あり 浅い中間層 ・・あり
深い中間層・・一部あり
なし
治癒期間 5〜10日
痕跡なし
浅い中間層 ・ ・10〜21日。軽い瘢痕
深い中間層・・25〜60日。厚い瘢痕
完全治癒しない

 ◎現場での対応

  ・熱傷を広げない様にすることが重要。
  ・少しでも早く患部を冷やす必要がある。(受傷した広さはわかるが、深さがわからないため、水や雪などで
   最低15分以上痛みがとれるまで冷やし続ける。)
  ・冷やす場合は受傷部位の衣類は脱がさず、衣類の上から冷やし、直接患部に水流をあてないようにする。
   高齢者などは冷却による全身低温に注意し、全身の観察を怠らないようにする。
  ・医師に見せるまえに薬や油は塗らない。

 ◎応急手当

  ・冷やした後、清潔なガーゼを当てておく。
  ・熱傷を負った皮膚は、菌が入りやすくなっているため、患部を清潔に保つ。水泡はつぶさない。
  ・やけどの範囲が体表面の10%以上に及ぶ場合は、速やかに下山して病院で治療を受ける。
   (手のひらを1%とし、それ以上の広さの場合は医療機関へ行く)
  ・熱傷によりヒスタミンが出る。それによりむくみが出て血圧が低下し、ショック状態になるので保温、安静。

(3)CPRとAED

   CPR=心肺蘇生術、ardioulmonary esuscitation
   AED=自動体外式除細動器、utomated xternal efibrillator

 ◎市民が行う一次救命処置のダイアグラム

        反応なし  大声で叫ぶ、119番通報、AED要請
          ↓
          ↓
       気道を確保し、呼吸をみる
          ↓
       普段どおりの呼吸をしているか?⇒している⇒回復体位にして様子を見守りながら
          ↓していない                  専門家の到着を待つ
          ↓
       胸が上がる人工呼吸を2回
(省略可)
          ↓ 
          ↓
       「胸骨圧迫30回+人工呼吸2回 」を繰り返す(AEDを装着するまで、専門家に引き継ぐまで、
          ↓                         または傷病者が動き始めるまで。 )
          ↓                         圧迫は強く速く(約100回/分)、絶え間なく。
          ↓                         圧迫解除は胸がしっかり戻るまで。
        AED装着
           ↓
 −−−−−ー⇒↓ ←−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−
 ↑     心電図解析・電気ショックは必要か? 必要なしただちに心肺蘇生を再開、   
 
↑        ↓                            5サイクル(2分間)−ーー
 ↑         ↓
 ↑         ↓必要あり  
  −−−−ショック1回。その後直ちに心肺蘇生を再開、5サイクル。

 ◎CPRを行う前に、まずやるべきこと

  ■傷病者の状態確認。全身をよく見る。大出血はないか?骨折などはないか?意識、呼吸、循環サインは?
  ■携帯などが通じれば、まず救助要請

  ■周囲の安全を確認する
  ■自分の感染防護処置(手袋、人工呼吸用マウスピースなどの着用)、傷病者の血液や体液に直接触れ
    ない。

 ◎CPRの手順

  @傷病者の反応・バイタルサイン確認(声掛け、意識、呼吸、循環)
    傷病者の顔の上に自分の課をつけ、傷病者の胸元を見ながら、息の音が聞こえるか?
    息が頬で感じられるか?、胸が上下に動いているか?  
    10秒以内でこれらを確認する。反応が無い傷病者が正常な呼吸をしていない場合は心肺停止と判断し、
    以下の心肺蘇生術を行う。
  A気道の確保(頭部後屈あご先挙上法)。
     片手で傷病者の額を押えながら、もう一方の手の指でアゴ先の
    硬い部分を引き上げる。あご先挙上は行わず後頭部を身体の下部方向に押し下げるだけでも効果あり。
    この時、頚椎の損傷(頚部損傷)があるかないかを確認することが大切。
  B人工呼吸
     傷病者の胸が上がるのが分かる程度の息を約1秒掛けて吹き込む。この時、傷病者の鼻をしっかり
     つまむことを忘れないこと。傷病者の呼気が自然に出るのを待ち、もう1回吹き込む。
    防護具が無い場合や、人工呼吸を躊躇される場合には人工呼吸は省略してもよい。
    救助者の位置と体位は、傷病者の胸の横の位置に膝まずくのが良いが、狭い登山道では馬乗りに
    ならざるを得ない場合も多い。
  C胸骨圧迫
    左右の乳頭を結ぶ線の真ん中に掌の付け根を置く。その上にもう一方の掌を重ねる。掌の真上に体重が
    掛かるように体を鉛直に乗り出す。肘を伸ばして体重を掛けて圧迫する。圧迫は胸が4〜5cm沈む程度
     にしっかりと圧迫すること。圧迫のスピードは100回/分。圧迫したら、胸が元の高さまで戻るまで圧迫
     を解除。
  D上記の胸骨圧迫30回、人工呼吸2回をワンサイクルとして繰り返す。
  E 傷病者が何らかの反応や目的ある仕草をみせた場合には、呼吸の確認に戻る。
  FCPRは,AEDが到着するまで、または救急隊が到着するまで続行することが肝心。
    救助者が2人以上いる場合には交代で行うこと。

(4)AED  

   AED(自動体外式除細動器、Automatede External Defibrillator)=心室細動が起こっている心臓
    の鼓動を正常に戻すために、心電図を自動解析して、必要なら心臓に電気ショックを与える機器。

  ◎AEDの使用法

    @AEDが到着したら、蓋を開ける。蓋を開けたら自動的にスイッチが入る機種とスイッチボタンを
      押さなければスイッチが入らない機種とがある。
    A金属類を傷病者の体から外す。
    B■AEDの音声メッセージに従って、電極パットを貼る。貼る位置は、傷病者の右肩下と左乳房下。
      ■肌に直接貼ること。貼った後で衣類などで覆うことは構わない(特に女性の場合など)。
      ■心臓ペースメーカーを埋め込んでいる人の場合は、左側のパッドをペースメーカーから2〜3cm
       離した位置に貼ること。ペースメーカーを埋め込んであるかどうかは、傷病者が身に着けている
        ペースメーカー埋め込み票で確認できる。また、ペースメーカーの埋め込み位置は左胸が少し
        高く盛り上っている位置である。
     ■体毛が濃いひとの場合には、パッドが体に密着するように毛を剃る(AEDにカミソリが入っている)。
     ■パッドを貼る位置はそれぞれのパッドに絵が描いてある。
    CAED音声に従い、全員傷病者の体から離れる。傷病者の体に触れていると正しい心電図が取れない。
    DAEDは心電図を自動解析し、「ショックが必要です。傷病者から離れてください、」または「ショックは
      不要です。CPRを続行してください」などのメッセージを送ってくる。
    Eショックが必要な場合には、全員傷病者の体から離れた後、ショックボッタンを1回だけ押す。
    F電気ショックを掛けた後、直ちにCPRを再開する。「ショックは不要です」の場合も同様。
      「胸骨圧迫30回+人工呼吸2回」を5サイクル(約2分間)繰り返す。
      再びAEDから心電図解析を行う旨のメッセージが流れるまで続行する。
    ◆一旦AEDを装着したら、CPR中でもパッドを外したり電源を切ったりせず、救急隊が到着するまで
     そのままにしておくこと。

   以上の手順C〜Fを救急隊が到着するまで休まず繰り返すこと。
    救助者が最後まで諦めずに、一所懸命頑張ることが傷病者の生命を救う唯一の道である。



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