◆「高所障害・低体温症・凍傷にならないために」  大塚忠彦

          
            (ローツェとアマダブラム、クーンブ・ヒマール、ネパール)

個人的使用の場合のコピーはご自由にどうぞ。その他の場合の無断転載などはご遠慮下さい。
©Tadahiko OHTSUKA 2008
When you follow any of the procedures described here,you assume responsibility for your own safety.

   《もくじ 》

      【1】高所障害(高山病)       【2】低体温症、凍傷
 (1)私の高所障害体験から  (1)低体温症とは? 凍傷とは?
 (2)高所反応と高所障害  (2)低体温症にならないためには?(予防法)
 (3)高所障害にならないためには?(予防法)  (3)低体温症になったら?(応急処置)
 (4)高所障害になったら?(応急処置法)  (4)凍傷の予防と応急処置
    参考文献・参考ウェブサイト     付録=高山病関係の語彙対訳

高標高で発症する特徴的な疾病

 ◎ 高所障害(所謂高山病)
 ◎ 低体温症・凍傷
 ◎ 高標高ゆえの登山中の突然死
 ◎ 現地の風土病、細菌性下痢、水中り、他 (ここでは説明を割愛)

【1】高所障害(高山病)

(1)私の高所障害体験から

■国内の山でも高山病は起きる!!
  @劒岳の場合(48歳、荷物サブザック)⇒頭痛、目眩
   (早月尾根経由頂上。当日の獲得高度=770m、前日=1500m)
  A穂高岳での場合(白出のコル天場、荷物30`幕営、50歳)
    徳沢園〜奥又白池〜A沢〜明神岳〜奥穂⇒酷い吐き気、酷い心悸亢進、頭痛、胸苦しさ、もうろう
   ◎当日の獲得高度=540m、前日=1000m
   ◎単独行、恐怖(A沢雪渓での滑落と落石の恐怖)?  
 ※当時は単なる疲労か?と・・。出発までは体調も通常の状態であった。しかし今までに経験したことが
   なかった症状。今思えば、これも高山病(高度障害)?

■アンデス・アコンカグア峰・1次(6,963m、59歳) ルート図は下記参照。
 
 @於、標高3,300m(コンフルエンシア、当日の獲得高度=2600m)
                  ⇒胸苦しさ、睡眠時息切れ、咳き込み多少
  A於、4,300m(BC、プラサ・デ・ムーラス)
   (@で高度順応1日滞在後2日間でAへ、荷物10キロ、獲得高度=日450m)
     ⇒@での症状改善せず。頭痛や吐き気は無し。SPO2=80、Pulse=91)
  B於、4,900m(C1、キャンプ・カナダ)
    (BCで4日間高度順応の後、ザック=15キロ、当日獲得高度=600m)
      ⇒息苦しさ・喘息状態に。咳き込みで胸部痙攣・圧迫感、計算能力減退
  C於、5,400m(C2、ニド・デ・コンドレス)
   (C1で2泊後、ザック=10キロ、当日獲得高度=500m)
      ⇒上記症状が亢進、横臥位になると途端に咳き込みが連続、呼吸困難
       =帰国後、高所肺水腫と診断される。(肺に余分な水分が溜まり呼吸不全に。後述)
  D他パーティー現地ガイドの忠告によりここでリタイア。街(メンドーサ、標高700m)に下るも
    咳き込みは回復せず。特に飲食時に咳き込みが亢進。帰国後1ケ月間この症状は残った。

    
   アコンカグア・ルート図。拡大図はこちら

(2)高所反応と高所障害(所謂高山病)

 高所に登れば、誰でも高所反応が現れる。
◆高所反応・・・低大気圧、低酸素分圧による過換気⇒低二酸化炭素血症⇒脳貧血
         ⇒吐き気、頭痛を催すようになる (メカニズムは後述)
◆標高と大気圧の関係・・・標高3000m=0.7気圧、6000m=0.45気圧、9000m=0.3気圧
◆標高を上げて行くに従い、⇒高所反応⇒高所障害(所謂「高山病」) へと進行する。
  高所反応はその高度に達すれば誰にでも現れる「生体反応」で、まだ病気ではない。
 ●高所障害は、高標高だけで起こるのではない。低山(標高2千m程度)でも、急激に高度を上げる
   ことによって発症することもある。
       「高所反応」の段階
           ▼(そのまま更に高度を上げれば)
           ▼
      「高所障害」(高山病)へ!!


■高所障害の種類

     種類          代表的な症状       段階
1.(高所反応) 頭痛、軽度の目眩、吐き気、食欲不振、悪心 単に生体反応
2.急性高山病(AMS) (Acute Mountain    Sickness)
頭痛(必発)、食欲不振、吐き気、倦怠感、虚脱感、目眩、睡眠障害、もうろう感、若干の運動神経失調、若干の意識障害 新しい標高に達した数時間以降に発症
3.高所肺水腫(HAPE)  (High-Altitude     Pulmonary Edema) 安静時でも呼吸困難、咳、横臥位で咳き込み、胸部圧迫充満感・痙攣、虚脱感、運動能力低下 重篤症状
4.高所脳浮腫(HACE)
 (High-Altitude
  Cerebral Edema)
意識障害、精神状態変化、言語障害、運動失調、 昏睡
最重篤症状。AMS最終段階

   ●高所反応は即発現、高所障害は発症までに数時間掛かる(その時点では羅病しているのが
    解らない。厄介)
   ●高所障害は初期症状から段階的に進行する。突然重症になることはない。
 即ち、早く気付いて早く対処すれば重症には至らない。恐れるに足らず。

■高所反応・高所障害のメカニズム

  @高所反応も高所障害も根は同じ。低酸素環境に身を置くことによって起こる。
   「高所反応」がそのまま進行したものが「高所障害(AMS)」、更に高所障害が脳や肺で
   顕著になったものをそれぞれ「高所脳浮腫(HACE)」、「高所肺水腫(HAPE)」と呼ぶ。
  A高所反応・高所障害発症のメカニズム
    ◎高所反応=酸素不足の環境下で生理機能を維持しようとする正常な生理学的反応。
    ◎低大気圧⇒低酸素分圧⇒酸素を摂取しようと過換気(Hyper Ventilation)⇒この結果CO2を
      過剰排出⇒低二酸化炭素血症⇒脳血管収縮⇒脳貧血
    ◎体内細胞は細胞膜を介して生命維持に必要な(同時に不要な)物質を出し入れする。
      その物質の選択には酸素が大量に消費されるので、酸素不足は出し入れ機能の低下をきたす。
    ◎脳と肺は酸素不足に一番弱い臓器⇒軽度の脳浮腫、頭蓋内圧亢進、肺水腫。
    ◎余分な水分が更に滞留すると⇒急性高所障害⇒脳浮腫、肺水腫(重篤症状)

■高所障害の諸段階と症状(対処法)

    段階             症 状        対 策
(高所反応段階) 軽い頭痛、目眩、ふらつき、悪心 安静、ゆっくり呼吸
急性高所障害
   初期
頭痛、動作時の息切れ、咳、食欲減退、心悸高進、不眠、目眩 その標高に滞在して高度順応を行う
   中期 激しい頭痛、安静時でも息切れ、咳と痰、 吐き気、嘔吐、ふらつき、倦怠感、意欲減退、むくみ(目、顔、足)、尿量減少、集中力減退、二日酔症状は脳浮腫の前兆 1段階高度を下げる
   重篤 チアノーゼ、泡状血痰、激しい嘔吐、尿量極減、心悸高進、全身のむくみ、激しい運動失調、意識障害、昏睡、(高所肺水腫、〃脳浮腫) 直ちに救助要請して、高度を下げ、早急に救急病院へヘリ搬送すること!!

(注)二日酔い症状と高山病の要因・症状は同じ。
   二日酔い=脳細胞の酸素取り込み機能低下による急性脳低酸素症(酸素吸入が特効薬)

(3)高所障害にならないためには?

 ◆ビスターリ、ビスターリ⇒標高3000m以上では獲得高度300m/day以下に。
 ◆焦らない、頑張らない、意地を張らない、くよくよしない。楽天で。
    「マオイストや南米の盗賊に撃たれても、高山病で死んでもワタシャ本望」くらいのノーテンキの
     方が気が楽。
 ◆自分の高所反応、高所障害の発症パターンを知っておくこと。場数も重要対処法を体が覚える。
 ◆最大の予防薬は『(大量の)水分の摂取』 4000m以上では4g/日が必要。
    ∵低大気圧?体内沸点下降&高所では低湿度?呼吸・皮膚からの蒸散が異常に増加
      紅茶、茶、ジュース、スポーツ栄養飲料 電解質、アミノ酸、塩分摂取(サプリ)も重要
  但し、中標高での水分過剰摂取はよくない。Moderately Hydorated(適正な水和状態)が肝心。
 ◆呼吸法 大きくゆっくり???深呼吸、腹式呼吸、2段階式呼吸
     ゆっくりと大きく吐けば自然に肺の奥まで沢山吸い込める。苦しいから『犬式呼吸』になり勝ちだが、
     これは全くダメ。呼吸法をマスターしておくこと。

 ◆高度順応
      ◎高度順応には免疫性が無い。その都度順応させること。
      ◎身体に覚えさせることが重要 ??? 場数も重要な要素
      ◎国内では富士登山も効果あり ◎低酸素室トレーニング
      ◎平地での有酸素運動(高強度短時間トレ)で最大酸素摂取量が増強
 ◆栄養の摂取(日常食べ慣れたもの)
 ◆防寒対策(低温は高山病の誘因となる)
 ◆アルコール、タバコの摂取は避ける(ストレス発散の利点もあるが・・)。
 ◆睡眠薬、睡眠導入剤は服用してはいけない(呼吸抑制作用、臓器の酸素不足信号麻痺)
 ◆細かいことは気にしない。
  ◆パートナーの言動に腹を立てない。高地では些細なことでもパートナーの
   言動が気になることが多いが、頭に血を上らせてはいけない。エエコロ加減に構えること。
   就寝時は、できれば個室テントが良い。
 ◆毎朝・毎夕の体調チェック=パルスオキシメーター計測(後述)、BC他の駐在ドクター
 ◆酢(粉末すし酢が便利)、タマネギ・スライス、ラッキョウ、ニンニク(粉末が便利)は血液をサラサラに
   する効果あり

 ◆高度順応の方法
  @最初の標高2,500⇒4,500mまで・・・4〜6泊くらい費やすスピードで。
  A 高度4〜6,000m・・・登下降を繰り返して高度順応する
    (“Climb high,sleep low”方式、折れ線グラフ方式)
   しかし、この方式は獲得高度が2倍以上になり、中高年にはキツイ。
   よって右肩上がり方式(“Climb high,sleep high”)を薦める人も多い。
   (ただし、この方式は高度4,000〜4,500mで完全に高度順応が完成していることが大前提。
    下記の図参照)
  B 高度6,000m以上・・・高度順応は不可能。登頂したらサッサと降る。長居無用。
  C 高度順応のため同一高度に滞在する場合・・・軽い運動をすること。何もしないのは逆に良くない。

              (高所でのタクティックス2種類)

(4)高所障害になったら(対処法)

 ◆「高所反応」の段階・・・安静にして、ゆっくり深呼吸を繰り返せば回復する。
 ◆初期症状・・・その高度に滞在して高度順応し、回復する迄は高度を上げない。
           水分、スポーツ栄養飲料をしっかり摂る。休息、安静。
 ◆中期症状・・・高度を下げる。200m下降するだけでも効果がある。
           ドクターが居れば診察して貰う。酸素(剤)吸入。
 ◆重篤症状・・・あればガモウバッグ。直ちにレスキュー・ヘリを要請し病院へ搬送。
 ●肺水腫の処置・・・ヘリが来るまでは「起座位」を採る(上体を45度に保つ)
              (横臥位は肺に滞留水分が余計に入り込むために病状を悪化させる)。
 ◆高山病の初期症状は疲労などと混同する場合が多い⇒自分のパターンを知ること。
   自分自身が高山病であることに気付かない場合が多い。これが一番危険。
 ◆いずれも、我慢せず早めにリーダーに申告する。申告が遅くなれば遅くなるほど症状が深刻に
   なると同時に、パーティーにとっても重大な支障を招来することになる。
 ◆高山病になったら、サッサと諦めて下山する。我欲・頑張りは悪化させるだけ。
 ◆自分の体調だけでなく、他人の言動にも注意を払い、お互いの体調をチェックしあう。
 ◆重篤症状の場合には、レスキュー・ヘリの要請を躊躇してはならない。

 ◎薬剤の服用について
    高所障害専門の治療薬・予防薬というものはないが、以下の薬剤が効く。
  ■予防には・・・アセタゾラミド(商品名ダイアモックス、炭酸脱水素酵素)
    高度を上げる日の朝、目的高度に着いた夕、各125(半錠)〜250mg(1錠)服用。
  ■治療には
    @軽症・・・●非ステロイド系鎮痛解熱剤(バッファリン、アセトアミノフェンなど)、
           ●ダイアモックス250〜500mg/day (1〜2錠)        
             (ダイアモックス=体液を酸性にし、徐々に換気量を増大させる効果がある。
              副作用=尿酸結石。尿酸結石の気がある場合には、例えばウラリット錠を併用
              すること )
    A肺水腫、血痰、チアノーゼ・・・ニフェジピン(商品名アダラート、降圧剤)
    B脳浮腫、意識障害・・デキサメタゾン(商品名デカドロン、抗浮腫、抗ショック剤)

  ■服用上の注意
    ◎上記の鎮痛解熱剤を除き、何れの薬剤も購入には医師の処方箋が必要。使用する前に
      予め医師に服用の方法(他の常用薬との併用、特に降圧剤、緑内障薬など)などを相談して
      おくこと。
      海外の高標高地、登山基地の街(例えばカトマンズでも)の薬局では処方箋無しで購入できる。
    ◎高所障害は夜間の睡眠時に進行する場合が多い。従って夜間の服用が重要であるが、
      一方、ダイアモックスには利尿作用があるので、小用回数が多くなるデメリットもある。

  ■ダイアモックスの適量
    立っている時、足裏にジーンとした感触や、壁に押し当てた手指がジーンと感じれば適量。
     接触していないのにジーンと感じれば過剰服用。
     錠剤は1錠250mg、十字線が入っていて1/4,1/2に分割できる。

 ◎その他の疾病には? (高所障害には直接の関係はないが・・・)
   下痢治療薬=黄色の錠剤eldoperが効果大。
   血栓性の病気予防(心筋梗塞、脳梗塞、肺栓塞)=アスピリン100mg
    アスピリンには血液をサラサラにする効果もあり。バファッリンという名称で販売されているものには
     アスピリンではなくアセトアミノフェンのもがあるので購入時に注意(バイエルは純正アスピリン)。
     内臓出血性持病(Ex.胃潰瘍)の方は不可。
   狭心症=ニトログリセリン(ミオコールスプレーという舌下に一吹きするタイプが便利)。
        血圧が上昇した場合にも有効。心筋梗塞には無効。

 ◎パルスオキシメーターについて
(パルス=脈拍、オキシ=酸素)
   ◆体内の動脈血酸素飽和度(SPO2=Saturation Pulse Oximetory)と脈拍を計測する小さな機器。
     動脈血酸素飽度とは、動脈血の酸化ヘモグロビンの割合を示す。ヘモグロビンは酸素の運搬屋。
     個人差はあるが、SPO2値は平地では100%。高度が上がるにつれこの値が減少してゆく。高山病
     チェックに対するこの機器の有効性についての議論はあるが、高所障害の発症とSPO2値の減少
     には相関があると見てよい。
   ◆絶対値ではなく、相対的な減少値により高山病の発症がチェックできる。SPO2値は多少は個人差
     があるが、同一パーティーの他のメンバーとの平均値とかなりの差異がある場合には、
     高山病を疑うこと。
   ◆現在では安価になっているので(数万円)パーティーで1ケは持参した方が良い。ツーリストでレンタ
     ルもある。BCのドクターステーションに設置されている場合も多い。
   ◆毎日朝夕定時に計測し、変化をチェックする。高度順応により値は回復する。
      【平均的なSPO2値(参考)】平地/100、標高3000m/90、4000m/85、5000m/75、8000m/45 
   ◆ 標高6,000m以上に登るには、「SPO2値≧75〜80」が必要と言われている。
             
  (パルスオキシメーターの例。日本精密測器社製)

【2】低体温症・凍傷

(1)低体温症とは?、凍傷とは?

  ◎低体温症=全身が寒冷によって冷却し身体深部の温度が下がり、筋肉や脳に異常が発生
  ◎凍傷=身体の一部が寒冷に曝され、生体組織の一部が凍結(手足の指、耳、鼻など)


 ◆健常な人体の体温は通常36〜37度。寒冷に曝されると、皮膚と四肢の血管を収縮させ、シェル部分
   の温度を下げることによってコア部分(深部、重要臓器)の温度は維持される仕組みとなっている。
   「コア温度≦35度」を低体温症という。
   (注)コア=人体容積の50%を占める内臓部分。シェル=体表面から深さ2〜2.5cmの組織(下図)。
 ◆熱の生産=肝臓・筋肉(安静時)、震え(骨格筋・収縮運動)、激しい運動
 ◆熱の喪失=放散(皮膚から=9割、肺から=1割)、対流、伝導、蒸散(汗の気化熱)               
 ◆体がドンドン冷やされると、熱の生産が喪失に追いつかなくなり、コア部分の温度も下がってくる。
   コア温度36〜35℃=軽症(震え、運動機能低下、協調性低下)
            33度=不整脈発症
            32度以下=震えが止まり、歩行困難、意識障害、30度=死んだような状態になる。
             

 ◆どのような場合に低体温症になるか?
   低体温症の3大原因=低温、濡れ、風(夏山でも濡れて吹かれれば低体温症になる)
   その他の原因=クレバスに滑落(※)、雪崩に埋没⇒100%低体温症になる。
     ※欧州アルプスでクレバスに転落の日本人医師の例=16時間後に救出、
       コア温度29度⇒奇跡的に生還(参考文献(4)参照)
 ◆低体温症の前兆⇒元気がなくなる、口数が少なくなる、激しい疲労感、他人に反応せず
 ◆低体温症の行く末⇒そのまま放置すれば凍死(夏山でも凍死する)

(2)低体温症にならないためには?

  登山中に低体温症になると、これから脱出することは非常に困難な場合が多い。
  よって、低体温症にならないための工夫が最も重要である。

  ■体を濡らされない・冷やさない
   (1)身体を濡らさない・・◎吸湿速乾性ORウールのアンダーウェア。
      ◎木綿は最悪・・濡れると冷却パットを貼り付けているのと同様
   (2)アウターは汗を発散させるような防水・透湿性の素材を。
   (3)汗を掻き過ぎないこと。コマメなレイヤリング。大汗を掻いたら着替えを。
   (4)雨具は防水・透湿性の素材を。風はウィンドブレーカーで防ぐ。
   (5)保温、特に頭部の保温(頭部皮膚からの体熱の喪失は全身の1/3にも及ぶ)
   (6)温かい水分と栄養で体内の熱生産を増進すること。
  ■無理をしない 
    ◎悪天で無理をする・焦る⇒体力消耗・熱生産能力減退⇒低体温症に鈍感になる
    ◎その他の要因 喫煙(血管収縮)、内分泌系疾患(甲状腺機能低下など、血管収縮)
       風邪気味、体力低下(熱生産能力低下)

(3)低体温症になったら?(応急処置と搬送)

  ■初期段階の場合(山小屋、テント内で対応できる場合も多い)
    (初期症状=強い疲労感、無気力、無関心。軽症=震え、フラフラ、遅れ)
  (1)先ずは山小屋、テント、ツエルト、岩陰などに避難させて風を防ぐ。
  (2)濡れている衣類を乾いたものに着替えさせ、防寒具を着させて保温する。
    (頭部保温のために帽子もかぶらせる、手袋もさせる、靴ヒモは緩める)。
  (3)カイロや湯たんぽ(ボトルで代用、タオルで覆う)で、首筋、脇の下、そけい
     部(上記図の加温箇所)を加温。健常者が(できれば裸で)直接抱いて添い寝するのも効果がある。
  (4)シュラフに入れる(入れる前にシュラフを暖めておくとよい)。
     シュラフが無ければ何でもよいから手持ちの衣類を全て被せる。
  (5)レスキューシートがあれば、これで包んで保温する。
  (6)テント内ではバーナーで湯を沸かし、テント内を温かい蒸気で充満する。
  (7)砂糖をタップリ入れた温かい飲み物を飲ます。食欲が出てきたら温かい食べ物も摂取させる。
     カフェインなどは厳禁。

 ■重症の場合(不完全なシェルターしか用意できない場合が多い。雪穴、岩陰など)
   (重症=立てない、震えが止まる、歩行困難、意識混濁。クレバス墜落、雪崩埋没)
  (1)火急に救助を要請する。以下の応急処置は救助隊に渡すまでの応急処置。
      冬場は悪天のためヘリが飛行できない場合が多いが・・・。
  (2)上記「初期段階」の手当てに加えて、以下を注意すること。
  (3)急激な加温、マッサージを行ってはならない(心室細動を引き起こす)。
  (4)本人の力で体を動かさないこと(心室細動を引き起こす)。
  (5)搬送する場合は、身体を仰向けにし水平体位で慎重に搬送する。乱暴はダメ(心室細動)。
     ヒューマン・チェーンで静かに行うこと。雪上を搬送する時は、シート(ツエルトなど)で梱包して行う
     (シート搬送法)。下記写真参照(写真出典:いずれも参考文献(5)。
        
   
 ■ヒューマン・チェーンによる搬送

  
   
 ■シート搬送  

                     

(4)凍傷の予防と応急処置

 ■凍傷の原因
  (1)濡れ、低温、風  (2)ピッケルを持った手が凍る (3)顔面の露出
  (4)アイゼンバンド締めすぎ、靴サイズが小さい、靴下の履き過ぎ、手袋が小さい。
 ■私の体験 八ケ岳石尊稜登攀、3月初旬、インナー手袋=ウール、アウターシェル=クライミング用
     5本指
  【手指】最初・痛覚⇒ズキズキ疼痛⇒やがて無感覚・棒を入れられた感覚⇒下山時ドーット血流回復・
      激しい痛み
 ■凍傷の症状 初期=痛み・かゆみ。中期=感覚がなくなる。末期=全く痛みを感ぜず。
 ■凍傷の度数と皮膚の状態
     【1度】蒼白色、紅斑・軽度の張れ(痛みやかゆみ)
    
【2度】紫紅色、腫れて水泡(ズキズキ疼痛)
     【3度】患部白蝋化(知覚麻痺)⇒黒く炭化・壊死 (外科処置要)                          
         
 
 ■凍傷の予防
   (1)靴や手袋を緩めにする(指が動く程度)。大部分の凍傷は血行の妨げから起きる。
      靴下・手袋をギューギューに重ねてはいけない。むしろ靴用カイロの方が効果的。
      袖口・足首部分の締め付けがきつ過ぎるウェアも血流障害を起こす。
   (2)靴や手袋に雪や風が入らないようにする。防水透湿性オーバーミトン着用。
      5本指が必要ない山行の場合には、2本指手袋(ミトン)の方が保温性が高い。
      手袋や衣類に付着した雪をこまめに払い落とすこと(濡れの防止)。
      手袋や靴下は汗で湿っているので、毎晩乾かすこと。
   (3)顔の防寒(目出帽、高所帽着用)。耳や頬などを時々叩く。
   (4)ピッケルを持つ手を時々変える。
    (5)手や足の指を意識的に動かす。

 ■凍傷の応急処置
   (1)手指を口腔に入れて暖める。
   (2)患部の融解(融解は、その後歩く必要がない場合のみ。融解後に歩くと柔らかくなった組織を
      再び外力で傷つける結果となり更に悪化を導く)。歩いて下山する場合には、凍結した状態で下山
      する方が障害は比較的軽度で済む。
  【融解の方法】40度前後の清潔な湯に浸す。消毒用アルコールがあれば湯に垂らす。湯温は一定に
           保つこと(温かい湯を補充する。バーナーなどで加熱してはいけない)。血流が回復する
           まで少なくても20分は続けること。血流が回復すると激しい痛みが襲うので、始める前に
           アスピリンなどの鎮痛剤を服用するとよい(アスピリンは血流障害を防ぐ効果もある)。
   (3)水泡がある場合には融解後、なるべく乾燥した状態にし、水疱が破れないように滅菌ガーゼなど
      で保護する。水泡は破ってはいけない。水泡が破れてしまった場合には、清潔な水で洗浄して
      滅菌ガーゼを当てる。感染予防が最大の課題。
   (4)融解後も保温を続ける。凍傷患者は低体温症併発の危惧もあるので全身保温も。
   (5)患部を雪でこすったり、直火に当てることは禁物(間違った「昔話」)。
   (6)「3度」の重症は、躊躇せず救助を要請すること。

【参考文献・web】

 (1)ジム・ダフ他著・若山他訳「登山者・トレッカーのためのサバイバル救急・処置読本(改訂版)」
      本の泉社、1,260円。
     デキサメタゾン投薬量が誤訳⇒「8ミリグラム、続く6時間ごとに4ミリグラム」が正しい。
 (2)日本山岳会医療委員会編「山の救急医療ハンドブック」山と渓谷社、980円
 (3)高山病の体験ついては・・・村井 葵「幻想のヒマラヤ」中公文庫
 (4)低体温症の体験については・・・船木上総著「凍る体」山と渓谷社、1,470円
 (5)(社)都岳連・遭難対策委員会編「冬山のセルフレスキュー」実技テキスト(2007年度版)非売品
 (6)日本山岳会・医療委員会ホームページ http://jacclimbingmed.hp.infoseek.co.jp/index.html


(付録)病気の英語語彙(★は重症)

 BCなどのドクターステーションには英語が話せるドクターもいるので以下を覚えておくと心強い。
また、アンデスなどではスペイン語が役立つので併せて記載しておく。

高山病  high-altitude sickness, mountain sickness    la puna, la apunamiento
急性高山病  acute mountain sickness(AMS)  la puna agdo
高度順応  acclimatization  acclimate
頭痛  headache  el dolor de cabeza
目眩  dizziness, staggering   el mareo
眠気  drowsiness  el sueno
不眠  insomnia   el insomnio
息切れ  shortness of breath   el jadeo, respiración
動悸  palpitations of heart  palpitaciones
意欲減退  restlessness  el inquietud
食欲減退  loss of appetite  mal apetito
運動失調  loss of coordination  mal coordinación
浮腫(むくみ)  puffiness   hinchado
例:目の下や顔のむくみ  puffiness around eyes and face
★全身のむくみ  puffiness all over the body  
吐き気  nausea  la nausea
嘔吐  vomiting  el vomito
★尿量減少  reduced urine output  
★高所肺水腫  high-altitude pulmonary edema (HAPE)  oedema pulmonar
★高所脳浮腫  high-altitude cerebral edema (HACE)   oedema cerebral
  cough  la tos
  sputum 
★泡状喀痰  foamy sputum
★血痰  sputum with blood
★胸がゼイゼイ鳴る  gurgling sound in the chest
★チアノーゼ  cyanosis (<Ger.Zyanose)
★幻覚  hallucination  
★昏睡  coma  el coma
凍傷  frostbite   el tumido
★低体温症  hypothermia   la hipotermia        
   (★印は重篤症状)


         お役立ち情報目次へ      トップへ