【登山技術テキスト】

ロープ結束の方法   大塚忠彦

 この編は登山で使う頻度の高いロープ結束の方法を示したものです。ロープは結び目に弱い。
このことにご注意の上、 ロープワークを行ってください。また、結び目はシンプルで「美しい」結び目にすること
が大切です。撚れていたりゴチャゴチャとした結束は、破断と勘違いの原因になります。なお、本稿ではシュリ
ンゲ(スリング)の作り方などについても触れてありますが、このような理由からシュリンゲは市販のソウン・
テープ・シュリンゲ(予め環状に縫ってあるテープのシュリンゲ)を使う方が安全です。以下に、ご参考までに
結び目の相対強度を示しておきます。

余談ですが、結束の分類には、「ノット(knot)」、「ベンド(bend)」、「ヒッチ(hitch)」があります。混乱して使用
されているものもありますが、大要は以下のとおりです。
《ノット》結節(結び目)を作る、船速(測定用の結び目)も同源。 《ベンド》結合(繋ぎ合わせる)。 
《ヒッチ》決着(絡める)、ヒッチハイクも同源。

【ご注意】解説写真では分かり易くするために、結び目を締めていませんが、実際には最後に結び目を
強く締め上げて下さい。

  結束の強度比較  相対強度(%)
結び目無し   100として
エイトノット   75〜80
ブーリン   70〜75
クローブヒッチ   80〜85
ダブルフィッシャーマン   70〜85
リングベンド   70〜80
オーバーハンドノット   80〜85
(source:American Alpine Journal)

 

個人的使用の場合のコピーはご自由にどうぞ。その他の場合の無断転載などはしないで下さい。

© Tadahiko OHTSUKA 2005

When you follow any of the procedures described here,you assume responsibility for your own safety.

【1】エイトノット(通し結び、束ね結び) 【11】バックマン・ノット
【2】クローブヒッチ(インクノット) 【12】スネーク・ノット
【3】ダブル・フィッシャーマンズ・ノット 【13】ガーダ・ヒッチ、ビエンテ
【4】リングベンド 【14】マリナー・ノット
【5】シートベンド 【15】ガース・ヒッチ
【6】ハーフ・クローブヒッチ(ムンターヒッチ) 【16】スリップ・ノット
【7】ブーリン・ノット 【17】オーバーハンド・ノッ
【8】プルージック・ノット 【18】(補足)懸垂ロープ2本の連結法
【9】クレムハイスト・ノット  
【10】オートブロック(マッシャー)  

【1】エイトノット(figure eight knot)

エイトノットはスッポ抜けに強く、解除も容易であることから、山では最も多用されている。ロープとハーネスの
連結、ロープ同士の連結、支点との連結など。通常の結束法には以下の3通りがある。

(1)通し結び(figure eight follow-through、図―1)

ロープをハーネスや立木に結ぶ場合、2本のロープを連結する場合などの結び方。ロープの一端に八の字を
作り、端をこの八の字に沿わせてなぞる。結び終わった末端はダブルフィッシャーマンで末端処理をしておく
こと。この末端処理は、末端処理自体で摩擦力を増強するためではなく、エイトノットを締め上げておくための
ものであるから、エイトノットに密着させて締め上げておくことが大切である。ダブルフィッシャーマンの代りに、
末端をエイトノットの環の中に通す末端処理法も行われている(多少解きずらいようである)。結び終わったら、
エイトノトが綺麗な8形をしているかどうか、ネジレや捩れが無いかどうかを裏表両面でチェックしておくこと。
このチェックはエイトノットだけでなく、全ての結束に共通である。なお、テンションが掛かかるとエイトノットが
解きにくくなるが、8字の中央にカラビナを通しておくと解き易い(スパイクカラビナと呼ぶ。但し間違ってこの
カラビナを支点に掛けるミスに注意)。



<図ー1 エイトノット・通し結び>

(2)中間結び(束ね結び、figure eight on a bight、図ー2,3)

ロープの中間にエイトノットを作る場合(ミッテルのハーネスへの連結など図―2)、2本のロープを連結する
場合(図ー3)などに使う。

 
<図ー2 エイトノット中間結び>                    <図ー3 エイトノット束ね結び>

(3)インライン・フィギュアエイト・ノット(in-line figure eight knot、図―4)

ロープの途中にループを作る。ゴボウで登る時の把手、ロープの途中をハーネスに連結する時などに使う。

    
<図ー4 インライン・フィギュアエイト>

【2】クローブ・ヒッチ(インクノット、マスト結び、clove hitch、図ー5、6)

メインロープでセルフビレーをセットする時などに使用。長さの調節が容易にできる利点がある。緩み易い
のでしっかりと締め上げておくこと。片手でも出来るように日頃から練習しておく(図―6)。カラビナのゲート
の向きが左右どちらに向いていても、また使える手が左右どちらであっても出来るようにしておくこと。要は
下に垂れている2本のロープが、作った輪の横の部分のロープの裏表に分かれて垂れていれば正解であ
る。立木などにこれでアンカーをセットする場合には末端処理はダブルフィッシャーマンで結ぶ。

   
<図ー5 クローブヒッチ、両手で作れる場合>


<図ー6 クローブヒッチを片手で作る例。環をカラビナに掛ける時、捻ったそのまま素直に掛けるのがコツ>

【3】ダブル・フィッシャーマンズ・ノット(double fisherman’s knot、図―7)

ロープスリングの作成などロープ同士の結束に用いる。巻き付けは、外側から内側に向かって巻くの
がコツ。ロープの末端はロープ直径の10倍以上出しておく(スッポ抜け防止のため)。スリングを作る
場合には、結束が終わったら、体重を掛けて結び目を締め上げておくこと。両手で引っ張ったくらい
では全然締まっていない。れぞれ外側から内側に巻いてゆき、末端をループに通して外側に引き出
し て締め上げる。

 
<図ー7 ダブル・フィッシャーマンズ・ノット>

【4】リングベンド(ring bend、図―8)

テープ結びとも呼ぶ。テープスリングの作成などテープの結束に使用する。末端はテープ幅の2倍以上出して
おくこと。リングベンドは緩み易いので、体重を掛けてしっかりと締めておく。また使用前には緩んでいないか
どうかを必ずチェックすること。 ロープの結束にこの方法を使うと、荷重で解けてしまうので、絶対に行っては
ならない。

  
<図ー8 リングベンド>

【5】シートベンド(sheet bend、図―9)

スリング同士の連結などに用いる。結ぶのも解くのも簡単。また、径が異なるスリング同士の連結も可。
巻きを二重にしたものをダブルシートベンドと呼び更に効きが良い。沢登りのお助け紐などのような荷重が
小さい場合には図Aでも良いが、安全のために末端を図Bのように通しておくと良い。ただし、シートベンド
で連結したスリングは、結束部分で強度が弱くなるので、ランナーに使ってはならない。


<図ー9 シートベンド>

  
【6】ハーフクローブヒッチ(half clove hitch 、図―10)

半マスト結び、ムンターヒッチとも呼ぶ。荷重が掛かるとブレーキングができるので、器具が無い時の確保や
懸垂下降などに使う。ブレーキ側のロープがカラビナのゲート側にくると、ロープの流れがゲートを押し開くので、
必ずゲートと反対側にくるようにセットすることが大切である。

    
<図ー10 ハーフクローブ・ヒッチ。右端はハーフクローブ・ヒッチによる懸垂下降>

          
【7】ブーリンノット(bowline knot、ボウラインノットとも読む。図―11)

エイトノットが普及するまでは、この結び方が主流であったが、結び目が緩み易い(指で押すだけで緩む)こと
から今は廃れた感がある。ハーネスが普及する以前のアンザイレンはこの方法で直接ザイルを胴体に結び
つけていた。結束が簡単であるので、エイトノットが結べないような場合には効果がある。ハーネスやダイア
パースリングも無い場合に、緊急にロープを直接胴体に縛り着けるような場合には便利。写真では示してい
ないが、必ずダブルフィッシャーマンで末端処理をすること。リング荷重(輪を横方向に引っ張る荷重)が掛かると簡単
に抜けるので、このような荷重が想定される場合には絶対に使ってはならない。実験してみると分かるが、
輪を横方向にちょっと引っ張るだけで手品のようにスッポ抜ける。


<図ー11 ブーリン>

【8】プルージック(Prusik knot、図―12)

メインロープの途中にスリングを連結して半固定したり(さ程衝撃が掛からないフィックスでの登高、
トラバース、懸垂下降時のバックアップ、宙吊りからの脱出など)、ブッシュを束ねて支点を作る時
などに使う。フリクション・ノットの一種。これにテンションを掛けると、メインロープが屈曲されて固
定される。従って、巻き付け部分を握ると屈曲が無くなって滑ってしまうので、登攀時や、懸垂時
には注意すること。テンションを抜くと巻き付け位置を変えることができる(そうは言え、一旦荷重が
掛かると締まってなかなか滑らない。スリングの結び目をプルージックの結び目の位置に持ってく
ると比較的よく滑らせることができる)。また、巻き付けられる方のロープの径が巻き付けるロープ
の径の2倍以上でないと効きが甘い。またロープが凍結していると効かない。通常の登攀ではメイ
ンロープはφ9〜10.5mmのものを使用するので、φ4〜5mmのスリングを持参しておくと便利である
(ロープスリングは柔らかい物ほど効きが良い。テープスリングは効かないので不可)。
因みにプルージックの代りにタイブロックやロープマンを使うと簡単にストッパーが作れるが、メイン
ロープの径が細い場合(φ9mm未満)や、噛ますカラビナの断面が細い場合には効きが悪くなる。
プルージックはロープ同士の連結なので、ずれて摩擦が起きると容易に溶融破断する。従って、
衝撃が掛かることが予想される場合には(例えばユマール登高の代用として)使ってはならない。

(ご注意) プルージックはテンションがメインロープの一点に掛かることから、シュリンゲでメインロープ
を溶断する危険が高いこと、一旦テンションが掛かった後ではテンションを抜いても解除が困難なこ
とから、最近はプルージックに代わって以下のクレムハイスト、オートブロック、バックマンを使う場合
が多い。、ブッシュを束ねて支点にする場合などの他は、最近は使われなくなってきている。
 欧米ではプルージック専用のシュリンゲ(プルージック・コード)が販売されているが、 加重が一点
に集中することにはには変わりないので、最近は敬遠されている。


<図ー12 プルージック>

【9】クレムハイスト(Klemheist knot、図―13)

ヘッドオンとも呼ばれるフリクション・ノットの一種。

【10】オートブロック〔マッシャー〕(auto block,図―14)

クレムハイストと似たようなフリクション・ノット。クレムハイストより解き易いが、テンションの方向にスリング
が引かれていないと効きが甘い。テープスリングの方が良く効く。写真では分かり易くするために締上げて
いないが、実際には締め上げて緩みを無くしておかないと効きが甘い。

【11】バックマン・ノット(Bachman knot、図―15)

やはり解くのがラクなフリクション・ノットの一種

【12】スネーク・ノット(snake knot、図―15)

同じくフリクション・ノットであるが、巻きつけ部分が長いので、巻き付け部分を握っても滑りにくい。位置の
移動も簡単である。但し巻き付け部分の上部を握ると滑る。写真では一重を示しているが、実際には長い
シュリンゲを真ん中から折り返して巻くので、ダブル巻きとなる。

   
<図ー13 クレムハイスト> <図ー14 オートブロック> <図ー15 バックマン> <図ー16 スネークノット>


【13 ガーダ・ヒッチ】(Garda hitch、図―17)

吊リ上げなどのストッパーとして利用する。同じ型のカラビナ2枚の間にロープの二つ目の環の片側を
挟み込む。挟み込まれた方のロープは自由に引くことができるが、反対側のロープは挟まれて滑らない。
カラビナは変形D型が良く効く。オーバル型やHMS型では効かない。安全環付は安全環が邪魔。

   
<図ー17 ガーダ・ヒッチ>

【13’ ビエンテ】(図ー17’) ガーダヒッチと同じくストッパーとして使う。


 
     図ー17’ ビエンテ     
    

【14】マリナーノット(mariner、図―18)

結び方が簡単で、テンションが掛かっていても簡単に解除できるのが特徴。墜落からの切り返し脱出の
際の一時固定などに向く。ロープスリングでもテープスリングでも効く。カラビナにスリングを2回巻き付け、
垂れた一端を他端に数回巻き付けて、端をスリングの間に通し、別なカラビナで最初のカラビナに連結し
ておく。


<図ー18 マリナーノット>

      
【15】ガースヒッチ(girth hitch、図―19)

立木などにスリングを結ぶ時に使う。滑らないように巻いておくこと。

【16】スリップノット(slip knot、図―20)

ハーケンにタイオフする時などに使う。また、簡易チェストハーネスを作る時、スリングを携行する時の
スリングの纏めにも使える。名前の如く、スリップノットで纏めたスリングは端を引っ張るだけでスリップし、
直ぐに元の長いスリングに戻るので便利である。

【17】オーバーハンドノット(over-hand knot、図―21)

ロープの途中にコブを作ったり(例えばアブミのプレート留メ)、中間部を束ねて固定する時など。


<図ー19〜21 ガースヒッチ、スリップノット、オーバーハンドノット>


【補足】懸垂ロープ2本の連結法

本文中では触れる紙幅が無かったので、最後に若干触れておく。
ロングルートのクライミングでは50mの懸垂ロープでは下まで届かない場合が多い。ロープを2本繋いで
1本の懸垂ロープにする方法には幾つかの結束方法があるが、大別するとダブルフィッシャーマンとエイ
トノットが使われている。
(1)ダブルフィッシャーマン
 古くから行われてきた方法であるが、荷重が掛かった後は結び目が固く締まって解除しづらい。また、
  径が異なるロープ同士の連結はスッポ抜けの危険性がある。(図―7 参照)
(2)エイトノット
 ダブルフィッシャーマンに替わって、最近では多用されている。径が異なるロープを連結する場合には
  必ずエイトノットで連結して下さい。
 <通し結び>
   2本のロープの端同士を通し結びにする(図―1「2本のロープの通し結び」参照)。スッポ抜けの危険
    は少ないが、回収する際に、結び目が岩角などに引っ掛かって回収しづらい。
 <束ね結び>
   2本のロープの端同士を束ねてエイトノットで結ぶ。セットが容易であること、回収の際、結び目が岩角
   に引っ掛からないこと、解除も比較的簡単であるなどからオススメの方法である。ただ、結んだ末端の
   長さが短い場合は、荷重が掛かるとスッポ抜ける危険性があるので、末端を1m以上余らせておくこと。
   また、懸垂下降に入る前に(セルフビレーが付いている状態で)、体重を掛けて結び目を締め上げておく
   ことを忘れないように(これをしないと、懸垂を開始して荷重が掛かると、結び目が徐々にずれて解け始
   める)。図―3「2本のロープの束ね結び」参照
(3) 2つのエイトノット同士を連結する方法
 上記のスッポ抜けを防ぐための方法であるが、結束に若干時間が掛かる。まず、一方のロープの端で
  エイトノット(束ね結びで)を作る。次に他方のロープ端をこのエイトノットに通して別なエイトノット(通し結びで)
  を作る(図―22)。回収時に岩角に引っ掛かり易いこと、凍結した場合には結び目が解除しづらいことから、
  次の方法もある。
(4)それぞれのロープ端にエイトノットを束ね結びで作り、これをカラビナ2枚で連結する(図―23)。

 
<図ー22 エイトノット同士の連結>                      <図ー23 カラビナで連結>


〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜豆知識〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜

◎ロープには種々の太さと材質がある。φ8mm以上でUIAA基準(Union de Internationale des
 Associations d’Alpinisme)をクリアした製品を「クライミングロープ」と呼び、φ8mm未満のもは「補助」ロープ
 (又は単にロープ)と呼ぶ。
◎クライミングロープの使用基準は以下のとおり。
 (1)φ8mm・・ツインロープ(2本束ねて使用。∞のマークあり)
 (2)8.3〜9mm・・ダブルロープ(別々に2本で使用。1/2のマーク)
 (3)10mm以上・・シングルロープ(@のマーク)
◎ロープスリングは通常はφ6〜7mm程度を使うが、潰れたハーケンの穴に通す時や、プルージックを作る場
  合にはφ4〜5mmが使われる。
◎テープスリングは1〜3cm幅のものが使い易い。予め環形に縫い付けられているソウンスリングが安全であ
  る。最近はダイニーマ(スペクトラ)と いうしなやかでしかも強度の強い製品(ただし、動的加重には弱い)も販
  売されている。従来は ロープスリングが主流であったが、近年はテープスリングが主流になりつつある(扱い
  易いため)。
  ただ、テープスリングでは摩擦が効かない場合もあるので注意したい(例えばプルージック)。
  スリングの長さはロープ、テープとも60cm程度のもの(シングルサイズ)と120cm程度のもの(ダブルサイズ)
  が使い易い。また、ピナクルに支点を作る場合にはトリプルサイズがあると助かる(八ケ岳の冬壁など)。色別
  に長さを変えておくと分かり易い。
◎ロープの強度(単位KN、キロニュートン) φ8mm≒40〜45 φ9mm≒50 φ10.5mm≒70 φ11mm≒80


      お役立ち情報目次へ       トップへ