【山の救急法(その3・最終回)】                    杉坂千賀子

【T】電撃
★落雷とは
 標準的な落雷では2億ボルト、2万アンペアの電流が1/1000秒で落下し、4/1000秒持続。あまりに短時間なために大部分の電流は衣服や体の表面を通るのみで内臓や筋肉が焼けることはないといわれる。電流の一部が目、耳、鼻、口、頭皮などから中枢部に入り、呼吸や心臓を止めてしまうと致命的になる。また、神経も障害を受けるために瞳孔が散大し、これを脳死と判断してしまい心肺蘇生をせずに命を落とす例もある。
★落雷の症状
 死亡原因のほとんどは電流による心臓・呼吸の停止である。命が助かったとしても鼓膜損傷、白内障、末梢神経麻痺、記憶障害、うつ病などの後遺症が残ることがある。
★落雷にあわないために
 人間自体が水分を含み、通電体である。そのことを踏まえ、付近の環境のなかで自分に落雷しそうな要因を排除することが必要である。すなわち、付近のものに比べて突出しない、または突出するものを身につけない(特にストックなどをザックにつけて頭より高い位置にならないようにする)。また立木からは2m以上離れること。稜線にいるならば下にさがり、低い位置に避難する。やむを得ず行動をしている時は、2m以上は離れ、団子状態にならない。
★応急手当
 心肺停止の場合はCPR(心肺蘇生)を行う。

【U】咬傷
★へび
 日本にはマムシ、ヤマガカシ、ハブと3種類の毒へびが生息しているが、マムシにかまれて亡くなることがほとんどである。
マムシ
 沖縄を除く日本全国に生息。もっとも被害の多いのは7,8月であえる。気温の低い高山帯にはあまりみられないが、標高の低い山や沢登りでみられることが多い。人が近づくと防衛本能で反射的にかみつき素早く逃げてしまう。時には自覚症状がない場合もある。
ヤマガカシ
 水田、水辺など湿地帯に生息する。黒と赤のまだら模様。奥歯でかまれると出血が止まらなくなる。
ハブ
 本州には生息しない。かまれた場合は抗毒血清を打ってもらう。
[症状]
 マムシにかまれると電撃性(焼けるような)痛みが走る。通常は1cm間隔くらいの牙痕が残る。その付近が次第に晴れて、やがて広がっていく。嘔吐、腹痛、下痢、ものが二重に見える、などの症状が起き、意識障害、急性腎不全、呼吸不全、心不全などを引き起こす。
[応急手当]
 体内に入った毒を少しでも取り除くためにポイズンリムーバーなどで毒を吸引する。あわてずに落着き、静かに下山する。血行がよくなると毒が早く回ってしまうので原則としては動かさず、患部を冷やし安静にするとよい。
★ハチ
 攻撃性の強いものはスズメバチ、アシナガバチ、ニホンキバチである。アレルギー体質の人などはショック症状。呼吸停止にいたることもある。
 スズメバチは、一度刺されて再びさされるとアナフィラキシーショックといって強いアレルギー症状が出て呼吸困難などを引き起こし命にかかわるので、刺されたことがある場合は医師に自己注射エピペンを処方してもらい携行することがのぞましい。
 斥候たるハチがまとわりつきはじめた場合はそばに巣があるのですみやかに戻るなどする。また警戒音(カチカチという音)にも注意した。黒いものに向かってくるので襲われはじめたら頭を白い手ぬぐいやスーパーの袋で多い、特に黒眼をやられないように注意する。刺された場合は冷却、安静にして医療機関へ。  襲われたら走って逃げたりせず、木のふりをするくらいに静かにする。また、化粧品のにおいはハチの攻撃フェロモンに似ているので注意が必要だとの報告もある。

【V】さいごに
 他に低体温などがありますが、こちらはHPの『お役立ち情報』「救急法」にすでに掲載してありますので、本講座「山の救急法」は今回をもって終了とします。