■手・腕のトラブルに関する救急法
         〜テーピングを中心に〜 杉坂千賀子

1.テーピングについて
2.応急手当の基礎
3.テーピングの基礎知識
4.テーピングの実際
5.吊り三角巾、覆い三角巾
6.その他

1.テーピングについて

  (1)テーピングとは
 
    靭帯、腱、関節など保護したい部分をサポートしたり運動を制限、圧迫、固定をする。
  (2)テーピングテープについて
     【種類】 伸縮性テープ、非伸縮性テープ
           目的、部位に合った幅、種類のテーピングテープを選ぶ
  (3)テーピングの効果
     @腫れや内出血を抑制  A可動範囲の抑制  B痛みの軽減、緩和  C関節や靭帯の補強
     Dケガへの恐怖心の軽減
  (4)テーピングが不適切な場合
     ◎骨折の疑いがある場合⇒副子固定などの応急手当をする。
     ◎患部に腫れがある場合⇒組織や周辺の血管、神経を圧迫して悪化させてしまう

2.応急手当の基礎(靭帯損傷など)

  ◎RICES処置

    ○安静(REST)  障害箇所を早く動かしすぎると内出血などを増すだけでなく機能障害を悪化させ、
              回復が遅れる
    ○冷却(ICING) 怪我の直後に行うことにより、内出血と腫れを最小限にすることができる。
               アイシングは20分を限度として感覚が無くなったら取り去る。
               24時間くらいは冷却期間とする。冷却材が無ければ水や雪を使う(タオル)。
    ○圧迫(COMPRESSION)  腫れてくる前に冷却と同時に行う。内出血の軽減になる。ほぼ24時間は
                     断続的に行う
    ○上(LEVATION) 心臓より高い位置に安静することにより、痛みが軽減する
    ○サポート(UPORT)  受傷箇所を固定することなどにより、動揺を防ぎ苦痛を軽減。また受傷部位を
                    保護。

3.テーピングの基礎知識

  (1)テーピングはアンカーに始まりアンカーに終ると言われている。アンカー貼りが大切。
  (2)テーピングを施す際の注意事項
     ◎テープ全体に均等な力がかかるように巻く
     ◎しわを作らない
     ◎必要以上に血流の妨げにならないようにする。施した後は爪の先などで圧迫してみて血流をチェック
       する
     ◎剥がす時は、皮膚を痛めないようにする。テープを剥がすのではなく、皮膚の方を剥がすような気持ちで。
  (3)非伸縮テープといえども、多少は伸縮性があるので、固定をしっかりしたい場合にはテープを引っ張りなが
     ら貼る。
    以下に、アンカー、Xサポート、フィギュアエイト、サーキュラーを示す(図ー1)。
   「アンカー」はテーピングの起点と終点に貼る「碇」のこと。「×サポート」は×型に貼る基本テーピング。
   「フィギュアエイト」とは8の字に巻く方法。「サーキュラー」は全体を覆うように貼るテーピングで仕上げ用。
   その他、「Iテープ」という縦に1本貼るものもある。

    
                (図ー1 テーピングの基礎)

4.テーピングの実際

  今回は手指と手首の固定テーピングの例を示す。使用するテープは非伸縮性テープ(所謂ホワイトテープ)。
  テープ幅は13ミリ、23ミリ、38ミリの物を適宜使い分ける。

 (1)親指を安定させるテ−ピング 幅23ミリ (図ー2)。

   親指の関節は肩とともに全身で2箇所しかない全方位回転関節である。それだけに障害を受けることも多い。
    親指を反らしてテープを貼ることが大切。

   
              (図ー2 親指のテーピング)

 (2)指関節のテーピング例 幅13ミリ 図ー3左

    ◎関節を固定する場合には図のように、@まずアンカーを2箇所貼る。A次に関節にかかってよいので
      縦に1本テーピングし(Iテープ)、さらに関節の上に重なるように斜めにアンカーからアンカーまで×状
      に貼る(Xサポートテープ。固定力を増すためには、Xテープを複数本貼る。関節の上にテープ掛けす
      ることで、関節を可動不可能にすることができる。B最後に再びアンカーで補強する。
       指の関節を可動させたい場合は、背には貼らず、指の両側に「×サポート」をほどこす。
    ◎指の骨折の副子には、隣の健常な指を使う(2本を合わせてテープで固定する。togetherという)。

   
  図ー3 左:手指のテーピング例   右:手首のテーピング   (「ニチバン」テーピングテープの例より)

 (3)手首のテーピング例 幅38ミリ (上図、図ー3の右図)


    @掌と腕の踝の少し上側の2箇所にアンカーを貼る。A〜B、まず、アンカーからアンカーまで縦に
     1本Iテープを貼る。次に×(×テープ)を順次貼っていく。Cこれらのテープが剥がれないようにアンカー
     で補強する。×テープは少し腕の裏側に廻すように貼ればしっかりと貼れる。 
      

5.吊り三角巾、覆い三角巾   

 (1)腕のつり方

    ◎吊ろうとする腕の肘側に三角巾の頂点を置き、健常側の肩に底辺を掛ける。一方の端を患部側の肩に
      向って折り曲げ他端と結ぶ。結び目を作る位置は健常側の体側。結び方は本結び。
      頂点の余り三角巾はとめ結びにするか、または折り曲げて挟み込んでおく。 図ー4。
    ◎腕と身体の間にクッションを入れると楽になる。
    ◎別の三角巾を使って腕を身体に固定すると腕が固定されて楽になる。
    ◎手先の爪の色が外から見えるように爪の部分を三角巾から出しておく(循環〔血流〕に支障をきたして
      いないかを
観察できるように)。
    ◎吊る時は、掌を下側に向けないように吊ること(腕の骨格と筋が廻ってしまう)。
    ◎前腕骨折の場合には副子を骨折部の外側と内側からあてて固定する。三角巾2本を使って固定する。
      結び方は、三角巾を環にして一方の端を環に通し、他端と結ぶ。図ー5。
    ◎副子の用件は、充分な長さがあること(骨折部位の上下の関節を固定するに足る長さ)、強度がある
      こと、軽いことが求められる。
    ◎副子は身近にある新聞紙、板、ストック、ピッケル、上着なども利用できるが、
      副子専門のエマージェンシーグッズ(中にアルミが入っている薄い板状の製品)も市販されている。
     形状が自由に曲げられるので、障害部位の形に添わすことが可能。例えば「サムスプリント」など。       
    ◎三角巾が無ければ、スーパーのレジ袋の両脇に切れ目を入れて、ワッカとなった部分を首に掛けても
     代用できる。

        
           図ー4 腕の吊り方                図ー5 前腕骨折の副子

    
 
 (2)覆い三角巾の例

    手先の例を示す。足先でも同様。図ー6。

    
                 図ー6 手先に覆い三角巾

  「5.吊り三角巾、覆い三角巾の図は、都岳連遭難対策委員会編「登山者のための救急法」より引用

◎手関節、手指関節の構造を図ー7に示す。

   
                   図ー7  手関節、手指関節の構造

6.その他(参考)

  ◎骨折患者への鎮痛薬投与の是非について

    一般に救急法においては、投薬はしないことになっている。この理由は、通常は医療機関への搬送が
   早めになされるケースが多いこと、投薬の判断は医師によってなされるべきこと、などの理由による。
    しかし、以上は救急車が来るのにさほど時間が掛からない場合のことで、現場の状況によっては搬送に
   時間を要したり、受傷したままビヴァークの状態にならざるを得ない場合もある。その場合は、苦痛を緩和
   するために鎮痛剤
などを飲むこともやむを得ない状況になる場合もある。
   その場合は、本人が希望・同意していること、 投薬した薬の種類・量、時刻をキチンと記録し、医療従事
    者へ引き継ぐことが必要である。
    

  ◎患者に飲食(特に水分摂取)をさせることの是非について

   ◎基本的には飲ませてはいけないことになっている。この理由は、重篤な場合、すぐ手術となると、おなか
    に食物や水があると嘔吐の原因になり、窒息などに繋がるので、手術が想定される場合には水を飲ま
    せてはいけないことになっている。どうしても欲しがる場合には、唇を湿らせる程度にするか、消防に状況
    を説明した上で指示を仰ぐこと。
     ただし、大出血している状態で一晩過ごすというような場合には、生理食塩水を非常にゆっくりと飲ま
    せるということも現実例としてはあります。生理食塩水 (食塩濃度0.9%、500ミリリットルのペットボトル
    に食塩4.5グラム、約小さじ半分程度)。
     いずれにしても、山岳という環境では、原則を踏まえた判断が求められます。搬送に掛かる時間、本人
    の状況を見極めるべきでしょう。

 ◎保温が重要であること(!!)

  骨折した事故者はショック状態になりやすく、寒さを訴えることが多い。血圧低下を惹起しているので、周りの
  人が想像する以上に寒がることが多い。夏であってもショックを起こしていると鳥肌が立ち、悪寒を訴えること
  がある。保温することが肝心である。
  
   
  
  ※本稿は、山なかま・シリウス研修会(2008.06.26開催)での講演要旨を纏めたものです



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